鏑木カヅキの作家人生

ラノベ作家が小説や漫画原作について語る場

【目次】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-
【小説ラノベ】専門学校に行く意味はない? なぜプロは行くなと言うのか【他分野】
【小説家になろう】Web小説が書籍化する確率【2022年版】
【カクヨム】Web小説投稿サイトは稼げる?【アルファポリス】
小説家になろう高確率で10000ポイントを取る方法2022年版
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【第30話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 青い顔をしたグラストさんが目の前にいる。
 ここは僕の家の居間。
 いつも通り、僕達家族は全員集合している。
 テーブルにつき四人全員でグラストさんの様子を見て、心配そうにしている。
 僕も同じだ。
 あの日、発雷石と雷光灯を発明してから、数日。
 連絡がなかったのだけど、今日になって、グラストさんが訪ねてきたのだ。
 結果を聞こうとした僕達だったけど、グラストさんの表情を見て、どう聞いたものかと悩んでいた。
 とりあえず家に招いて、話を聞こうという態勢を整えた。
 というのが今の状況だ。
 一体どうしたのか。
 まさかまったく売れずに困ってしまったのだろうか。
 それならば僕の責任だ。
 誰も僕を責めないかもしれないけど、僕の責任であることは間違いない。
 僕は不安を抑え込みながら、グラストさんの言葉を待った。
 そしてグラストさんは目を泳がせながら、ふるふると唇を震わせた。

「――完売した」
「へ?」

 僕は思いもよらない言葉を受けて、素っ頓狂な声を出してしまった。
 完売?
 あれ? 売れたの?

「それはよかったが、ならばどうしてそんな顔をしている?
 もっと喜べばいいだろう?」

 父さんの言葉はもっともだ。
 僕達全員が同じ気持ちだったはずだ。
 しかしグラストさんの姿勢は変わらない。

「売れたのはいいんだ。知り合いの店に商品を置いて貰って、すぐに完売したらしい。
 問題は……その……売れすぎた」
「売れすぎた?」
「ああ。一瞬で売れた。店で商品を見つけた客が口コミで宣伝したらしくてな。
 すぐに売れちまった。値段もお手頃にしたからだろうよ。
 大好評で、誰が作った、どうやって作ったって質問攻めにされちまってよ……。
 も、もちろん誰にも言ってねぇよ。そんでよ……もっと作ってくれって頼まれちまって」

 グラストさんがちらっと僕を見た。
 ああ、なんだそういうことか。

「つまり、シオンに手伝ってほしい、と頼みに来たのか?」

 雷鉱石の加工自体は誰でもできる。
 問題はフレア、つまり火魔法だ。
 雷鉱石の精錬過程において、フレアは必須で、それがないと電気発生という特性がなくなる。
 僕の存在が必須というわけだ。

「わ、わかってる。もうかなり助けてもらってる手前、無理を言うつもりはねぇ!
 シオンが嫌だってんならそれでいい。もう終わりにする。
 けどよ、これだけ特殊な状況だ。やっぱ、商売人としては稼げる時に稼ぎたい。
 もちろん、手伝ってもらうなら報酬は出すぜ。
 それと、迎えにも来るし、イストリアからこっちまで馬で送りもする! ど、どうだ?」

 父さんがどうする? と視線で尋ねてきた。
 報酬が貰えるのは嬉しい。
 まあ、今のところお金は必要ないから、家に入れるだろうけど。
 それに以前、頼んだことも考えると、グラストさんと一緒にいる状況をある程度作っておいた方がいいだろう。
 今のままだと、グラストさんと会えるのは、父さんとイストリアに行った時か、グラストさんが家に来た時だけ。
 それだと色々と都合は悪い。
 ただ、時間がなくなるのはデメリットだ。
 魔法研究と鍛錬の時間が少なくなるのは抵抗がある。
 合成魔法の研究もしたい。
 しかし、今後を考えるとグラストさんの案に乗るべきでもあるだろう。
 それに、グラストさんの頼みだしなぁ。

「いいですよ」
「本当か!?」
「ええ。ただし、三日に一回まで。それとこちらの都合で休ませて貰うこともあるかもしれません。
 その時は事前に言いますけど。それと、長期間は難しいかもしれません」
「あ、ああ、それでいい。十分だ!」

 グラストさんは喜色満面で頷く。
 この年齢である程度の収入が期待できるのは大きい。
 仮に僕が所持できなくとも、僕が稼いだという事実があれば、父さんに何かをねだることにも抵抗が薄くなるし。
 結局、今日から手伝うことになった。
 中庭。
 僕はグラストさんの馬に乗り、家族達に振り向く。

「いいか、グラスト。遅くなる前にシオンを届けるんだぞ。
 さすがに行き来は大変だろうから、泊まってもいいが」
「ああ、悪いな。助かるぜ。きちんと面倒見るからよ!」
「どちらが見てもらっているのか疑問だが……。
 シオン、気を付けるんだぞ。それと一人で無茶なことをするなよ?
 魔法に関しては、おまえは暴走気味だからな」
「大丈夫だよ。安心して」
「それと……マリー。おまえは留守番しなさい」

 いそいそとグラストさんの馬に跨ろうとする姉さんに向かい、父さんが呆れながら言った。

「ええええええええええっ!? どうしてぇ!?」
「どうしてもこうしても、シオンだけで十分だろう」
「でも、シオンだけじゃ心配だもん!
 あたしがいた方が、きっと色々と助かるわ!」

 確かに姉さんがいた方が助かるし、僕としては心強い。
 最近では姉さんがいる時は、魔法実験をしていいと言われている。
 ただし、簡単なもので、危険な内容の場合は父さんが立ち会うようになっている。
 今のところはこれを順守している。
 そのため、父さんから信頼はされているようだ。
 ただ父さんは全面的に姉さんを信頼しているわけではない。
 これくらいならいいだろうという線引きをしてのことだ。
 実験自体、中庭か自室でするし、毎回母さんにも報告はしてる。
 遠方、親の目の届かない場所に行く場合、その限りではないということだろう。
 むしろ姉さんがいた方が無茶をしかねない。
 一応は、姉さんの立ち合いがあれば多少の実験はしていい、ということにはなっているからだ。
 父さんが考えているのはこんなところかな。
 僕は父さんの言いつけを守り続けているし、いい子でいる。
 手はかからないし、わがままも言わない。
 魔法関連だけ、自分の道を進み、迷惑をかけているけど。
 それ以外はまともなはずだ。
 だから父さんは、僕に対してしっかりしている息子という認識をしている。
 まあ、でもさすがにその信頼に応えすぎるのもどうかと思う。
 多分、これからはちょっとそこから逸脱することになるだろう。
 姉さんはずっとブーブー言ってる。
 普段から自分の主張をしている人はさすがだ。
 粘ればどうにかなると思っている。
 そしてそれは父さんには有効だった。

「わかった。マリーも行きなさい……グラストに迷惑かけるんじゃないぞ。
 それと危険なことはしない。いいな?」
「っ! ええ、わかってるわ! 大丈夫、あたしがシオンの面倒見るから!」

 どんと胸を叩き、マリーはすぐに馬に跨った。
 なんという早業。
 父さんは諦観のままに、ため息を漏らした。
 こういう時、母さんは何も言わない。
 後ろでにこにこしたり、困った顔をしたりするだけだ。
 家長である父さんを立てているんだろう。

「話がまとまったところで、そろそろ行くぜ。夕方には送るからな」
「ああ、頼んだぞ」

 言うと、グラストさんは馬を走らせた。
 家からある程度離れると、僕は舌を噛まないように気を付けながら話す。

「約束の品はどうですか!?」
「一ヶ月ほど待ってくれ! 腕利きの裁縫職人にも手伝ってもらうことになってるからよ!
 もう片方の依頼は考えがある! そっちは後でいいだろ!?」
「はい! 大丈夫です!」

 蹄の音がけたたましく響く中、僕達は大声で会話をする。
 姉さんは後ろから、僕に抱き着きついている。

「何の話!?」
「後で話すよ! ちょっと長くなるから!」
「むぅっ! わかったわよ!」

 それから数時間してイストリアに到着し、雷鉱石の加工を始め、昼を超え、午後三時くらいに店を出て、グラストさんに自宅に送ってもらった。
 滞りなく終わったことで、父さんも安心したようだった。
 それから、僕は定期的にバイトに行くようになった。
 合間の数日は、魔力操作に時間を費やすことにした。
 合成魔法を使うには、魔法に魔力を接触させる必要がある。
 姉さんと二人でやればいいけど、一人でできる方がいい。
 そこで僕は考えた。
 右手から魔力放出をする際、別の部位から魔力を放出できないか、と。
 右手の放出は60。
 残り40は体内に残っている。
 これを別の場所から放出できるかもしれないと思ったのだ。
 結果を言うと、少しはできた。
 右手と左手、両方に意識を集中させるのはとても難しかったけど。
 少しずつ、できるようにはなっている。
 他にも色々と考えていることはあるし、合成魔法には可能性が詰まっている。
 ただ、今はこの同時魔力放出ができるようにしたいと思う。
 合成魔法の実験はそれからだ。
 魔法の鍛錬をし、数日後にまたグラストさんの店に行き、合間に鍛錬。
 その生活をしばらく続けた。

 目次 <<第29話 第31話>>

【小説ラノベ】専門学校に行く意味はない? なぜプロは行くなと言うのか【他分野】


様々な業界のプロの方が、こういう話をしているところを見たことがありませんか?


「自分は独学でやったし、周りもみんなそう」や「専門学校で学ぶことは全部一人で学べる。行くのは金の無駄」や「専門学校なんてやる気のない人が行く場所。プロはみんな勝手にやって、勝手にプロになる」や「学校に行くような奴はプロになれない。自分でやれない奴はプロになれない」など。


プロの作家に限らず、こういう話には枚挙に暇がありません。特に【個人で行えるジャンルのプロにこの傾向は強い】と思います。
小説家、漫画家、プロゲーマーなど。プロ全員ではありませんが【独力でのし上がった人が活躍している業界程、トップ層が専門学校を不必要に感じている傾向にある】と感じます。


では本当に専門学校に行くべきではないのか、そして、独力で結果を出さなければプロとして活躍できないのか、それらを解説していこうと思います。


ちなみにこの記事は【小説家やラノベ作家以外の分野でも言えることだと思いますので、よければ他の分野を目指す人も参考にしてください】


専門学校のメリットと行った方がいい人


私は小説の専門学校には入っていませんが、別ジャンルのクリエイティブ系の専門学校に行っていました。正直に言いますと、大した目標もなく専攻学部の勉強なんてまったくしたことがないまま入学しました。今思うとかなり考えなしだったなと思いますが【今では行ってよかったなと思います】


大半の生徒は専攻分野に明るくなく、高校を卒業して進路に困ったとか、近しい分野に明るかったからとか、曖昧な理由で入学した人が多かったように思います。
実際に、入学してから初めて学ぶ人は多く、途中でついていけずに辞めた人、適当に時間を過ごす人、頑張って勉強して成長する人など様々でした。


基本的には一から学びますから、私のような【何も知らない人間でも真面目にやればある程度の技術や知識を得ることができます】
学校によっては実績のある先生も沢山いますから、きちんと学ぶことができます。その時間は決して無駄ではありません。


業界の人と知り合う機会もありますし、成績によっては【在学中にプロデビュー、あるいは就職が決まったり、業界の人とつながりができる可能性もあります】


適当にやれば単位が取れず退学になりますし、真剣にやらなければついていけなくなります。専門学校に行かない人は、簡単なイメージがあるかもしれませんが、正直【卒業するのは大変】です。


学部にもよりますが大学よりも卒業するのが難しいかもしれません。入学試験の難易度で言えば、圧倒的に大学の方が上ですし、大学の学部や研究室によっては単位をとるのが大変なので一概には言えませんし、専門学校にもよりますが。


私も必死に勉強し、課題をしていき、徐々に専攻分野に明るくなり、業界を知っていき、様々な経験や知識を培っていきました。卒業後、一応は業界の何社かから内定をいただいたのですが、結局別の業界で就職しました。


いやいや結局別の業界に就職してるだろ! 無駄じゃないか! そう思うかもしれませんが【突き詰めてやったからこそ自分には向いてないとわかったのです】


大半の人たちは何もせずに諦めるものです。
学費という大きな負担はありますが、その分野に触れ、諦めることになったとしても、自分には向いてないときっぱり諦めることができたのは、人生において非常に有益だったと思います。


もちろん、結局はやめてますし、お金もかかってます。結果的にはやらなくてよかったということになりますが、【それは結果論】です。


人は挑戦し諦め、別の夢を追いかけます。あるいは夢を諦め、現実と向き合い近くの幸せを噛みしめます。どちらも尊く、かけがえのないものですし、どちらが正しいと言うわけでもありません。


しかし【何もせずに諦めるのと、やり切って諦めるのとでは雲泥の差があります】
どうせ無駄になるだろうと思うことと、無駄になるかもしれないけどやってみようと思うこと、どちらが前向きなのでしょうか。


以上を踏まえて、専門学校に行くメリットと行った方がいい人を見てみましょう。

 

◆メリット
・基本的に一から学べる
・条件によってはモチベーションが保ちやすい
・同じ目的を持つ仲間ができる
・業界の人とコネができる可能性がある
・業界のことを深く知れる
・疑問があれば先生に聞けるため、すぐに解消できる
・独学より、圧倒的に効率がいい
・学校は純粋に楽しい
◆行った方がいい人
・新しいことを学ぶのが苦じゃない人
・仲間や友達が欲しい人
・家が多少、裕福な人
・業界との繋がりが欲しい人
・勉強や練習を一人で続けるのが難しい人
・目的意識を持って学び続けられる人

 

こんな感じでしょうか。
基本的には学校という環境に適応し、目的意識を持ち続けることが大事です。専門学校は沢山の活用できる環境が揃っています。先生や課題、イベント、そして時には企業案件などもあったり、研修のために業界の人と関わることもあります。


それらの機会を十分に活用し、日々仲間たちと切磋琢磨し、勉強や練習をし続けることができる、そんな人に専門学校は非常におすすめです。

 

専門学校のデメリットと行かない方がいい人


……と、ここまでは専門学校を勧めるような内容になっていますが、もちろんデメリットもあります。


まずはなんと言っても【学費が高い】です。
年間数十万から百数十万ほどかかります。これが最大のデメリットだと言えるでしょう。


家が裕福、あるいはよほどの意欲がありアルバイトなどで貯金をした人以外は入学することさえ難しいでしょう。
もちろん、学部によってはもう少し安いコースもありますし、中には奨学金もあるので、一概に高額とは言い難いですが【一から学び、きちんとした環境が整っている学部は大体高額】ということは頭に入れておいた方がいいでしょう。


そして、メリットでも話しましたが【専門学校は様々な考えの人たちが集まる場所】です。メリットでもありますが、それはデメリットでもあります。なぜならば全員が【高いモチベーションを持って入学しているわけではないから】です。


絶対にプロになると思っている人いるでしょうし、何となく興味があったから入学した人もいるでしょう。中にはとりあえず進路を決めるために入学した人もいます。
もしかしたら、社会に適合できない人たちの受け皿になっている場合もあるかもしれません。専門学校は入学のハードルが低いですからね。


人は周囲から影響を受けるものです。
最初はモチベーションが高かった人が、周りに影響されやる気をなくし、堕落するなんて光景を私は何度も見てきました。周りに足を引っ張られ、退学したり、単位を落としたり……そんな風になってしまう人もいます。


専門学校は学費さえ払えば大抵の人は入学できます。それゆえに本気な人や適当な人、何も考えてない人、周りの足を引っ張る人と、様々な人たちがいるのです。
そんな中でモチベーションを保つには【自分と同じ志を持つ人を見つける】【自分だけは努力し続けるという強い意志を持つこと】が大事です。


そして当然ながら【全員がライバルであることは忘れてはいけません】
成績が優秀であればあるほど、実力があればあるほど業界の人とお近づきになれる機会が増えます。学校内で随一の優秀な生徒は必然的に先生や学校がお勧めしますから、編集さんや出版社、企業も注目しやすくなるでしょう。


もちろん実力がなければお断りされるでしょうが、校内トップクラスの成績があるのであれは新人賞や大賞で受賞したり、担当編集がつく可能性が非常に高くなります。


作家になっても結局は競争です。売れなければ淘汰されるのですから。


さて、それでは専門学校のデメリットと行かない方がいい人を見てみましょう。

 

◆デメリット
・学費が高い
・モチベーションを維持しないと堕落する
・最終的に実力をつけないとデビューは難しい
・長い期間が必要になる
・学校の場所によっては引っ越しが必要になる
・同じ志を持つ仲間がいなければ厳しい
・中には詐欺まがいな学校もある
・学歴に書けない場合がある
◆行かない方がいい人
・学費を払うのが難しい人
・学校に行けばプロになれると勘違いしている人
・コミュニケーション能力がない人
・努力できない人
・継続できない人
・専攻分野に対して興味がない人
・すでに実力がある人

以上です。
専門学校は【一から学ぶことでき、学ぶ環境が整っている】という点がもっとも大きなメリットだと思いますが【学ぶ気がなく、モチベーションが低く、環境を最大限に活用できない人には向いていない】と思います。


専門学校は小中高とは違い、待っていれば教えてもらえる場所ではありません。授業を真剣に聞き、課題の中から【自分の課題を見つけて学び、最終的にプロになるという目的意識を持ち続けることが必須】です。


最初は何となくでも構いません。まずは触れることが何よりも大切ですからね。
ただ、向いてないと気づいた時、あるいはどうやってもプロになれるとは思えないと思った時には、すぐに辞めた方がいいかもしれません。


お金は使ってしまいましたが、だらだらと過ごしても時間が過ぎるだけです。
【挑戦して、自分には向いてないと気づくことも人生においては必要なことです】。これができない人は何も挑戦せずに、安全で普通な道を進むことになりますが、それも一つの幸せです。決して悪いことではありません。


人生において失敗は無駄ではありません。失敗して、それが自分に向いてないとわかれば、今後は憂いなく別の道に進めます。挑戦せず、ずっと引きずってあの時、ああしていればという人はたくさんいます。【そういう人は挑戦する前に、どうせ無駄だと決めつけた人たち】です。


もし資金に余裕があるのならば専門学校に行ってみる、というのも決して悪い手段ではないでしょう。

 

なぜプロは専門学校に行く必要がないと言うのか

では、なぜプロは専門学校に行く必要がないと言うのでしょうか。


冒頭でも話しましたが、独力でのし上がった人が活躍している業界のプロが、専門学校に行く必要がないと言っている傾向にあると私は考えています。


世の中には沢山の職業の専門学校があります。公務員、看護、IT、電子工学、自動車整備、法律、言語、インフラ、ゲーム、美術、建築などなど。無数に存在します。
ですが、その大半では【専門学校に行くのは無駄と言っている人は少ない】と思います。専門学校入学を推奨している業界も沢山あるくらいです。


それは専門学校の教育がしっかりしているから、その学校には実績があるから、有名だからだ。一般的な職業と、プロが存在するような業界では全く違う、という人もいるでしょう。


そして【専門学校に行ってプロになっている人は、学校に行かなくてもプロになっていたはずだ】という、思い込みで判断していることさえあります。実際に何度も聞いていますし、多くの成功者のインタビューなどで見た人もいるのではないでしょうか?


そもそも【プロの方で、専門学校のことを深く知った上で否定している方がどれくらいるのでしょうか?】


大半の人は何となくで否定しているかと思います。イメージや一般的かどうか、世間に認められているかどうか、そして何より【自分は独力でプロになったのだから学校に行くなんて無駄】と思っているだけです。


なぜなら学校に行くのは時間もお金もかかり、さらに必ずプロになれるわけではないからです。
それも一理あります。ですが【本当にそうでしょうか?】


私は【専門学校に行ったからプロになれた人】【独力でプロになれたけど、専門学校に行った方がよかった人】もいると思います。
結局は全て結果論でしかなく、専門学校も独力も選択肢の一つでしかありません。そして、人には向き不向きがあり、必ずしもこうでなければならないなんてことはありません。


授業は適当で、先生は素人で、プロになれた人なんて一人もおらず、取り組みも金を搾取するだけのものであれは専門学校は無駄で、絶対に行くべきじゃないと言うのもわかります。
ですが、そんな専門学校はほとんど存在しないのではないでしょうか?


受験だって独力で勉強し合格している方もいます。ですが、予備校や塾はたくさん存在しますし、合格するなら行った方がいいと言われますよね?


それはなぜか。【その方が効率がいいからです】
実績があり、受験の攻略情報を知っている講師陣に教わった方が確実に点数が沢山取れ、合格できる確率が上がるからです。実際に数字として出ており、それが一般的になっているからです。


作家や漫画家、プロゲーマーなどは専門学校からプロになった人が少ない分、どうしても世間からの評価が低い上に、ほとんどのプロは独力でデビューしているため専門学校の必要性がわかりません。
ですがそういったプロの人は、専門学校でしている授業も活動もあまり知らないのではないでしょうか。


独力で大学受験し、合格した人が、予備校を勧めるでしょうか?
恐らく、その人はきっとこう言うでしょう。


「予備校なんて金の無駄。独学で大学は受かる。俺(私)はできたよ?」と。


まとめ

いかがだったでしょうか?
私は必ずしも専門学校に行くべきとも思いませんし、行かないべきとも思いません。結局は、選択肢の一つであり、活用できて、目標が明確にあるならば通ってもいいと考えています。


家が裕福であれば何となくでも入学し、体験してみるのもいいかもしれません。それ自体を無駄などと考える必要はありません。【結局は挑戦してみないとわからないこともあるのです】


習い事と同じです。やめるかもしれないし、プロになれないのだから、挑戦すべきじゃないなんて言わないのではないでしょうか? 
習い事は本業ではないというのでしたら、働きながら学校へ行くという選択肢もあるはずです。


とにかく、興味があるなら、一度調べてみてください。
ただし【通う専門学校はきちんと調べてください】
専門学校によってはぼったくり、詐欺まがいなところもあるようですので【必ず、評判やレビュー、カリキュラム、学費、卒業者の進路、そしてどれくらいの人がプロデビューしているかの比率を見る】ようにしてくださいね。


ちなみに就職率を出している専門学校が多いですが、【大体は別業種に就職しても計算に入れているので注意】してください。

 

それでは、また。

【第29話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 さて、しばらくは連絡が来ないだろうことを見越して、今できることをしておこう。
 研究は頓挫しつつあるけど、気になっていることが一つあった。
 僕は幾つかの道具を持って中庭に向かった。

「あら? シオン、今日は何をするの?」

 剣の素振りをしていた姉さんがうっすらを汗を掻いていた。
 爽やかな情景だ。
 僕には程遠い情景でもある。
 姉さんは汗を拭いつつ、僕の下へ来ると、手元に視線を移した。

「コップと蝋燭? 何に使うの?」
「まあ、見ててよ」

 僕は中庭にある平らな岩の上に二本の蝋燭を置いた。
 火はフレアではなく普通に焚火から頂いている。
 風はあまりないので火は揺らめくだけで消えはしない。
 僕は一本の蝋燭の上からコップを被せた。
 すぐにコップを上げると火は消えている。

「火は酸素がないと燃えない。だからこうやって密閉空間にすると消える。
 それは姉さんも知ってるよね?」
「え、ええ! し、知ってるわよ!」

 これは間違いなく知らなかったな。
 まあ酸素の下りは別として、何かを覆いかぶせたりして消すなんてことはこの世界でも比較的知られている。
 だけど暖炉の火は水で消すか、そのままで自然消火させることが多い。
 それに普通のランプは息を吐いて消すものが多い。
 火に蓋をする方法は一般的ではあるけど、我が家ではあまり見かけないだろう。

「それで、それがどうかしたの?」
「うん。普通の火はこうやって消えるけど、魔法の火はどうなのかなって思ってね。
 ちょっと試しにやってみようかと」
「消えるんじゃないの?」
「さあ。どうかな」

 僕は右手をかざしてガスフレアを生み出した。
 持続時間は三秒ほど。
 十分だ。
 僕は即座にガスフレアにコップを被せた。
 そしてすぐにコップを開けてみる。

「あら、消えてないわね」

 そう、消えていない。
 酸素がないはずなのに、消えていない。
 これはどういうことなのか。
 まず普通の火は点火源、酸素、可燃物質が必要だ。
 以前、火魔法は魔力を可燃物質としているんじゃないかと考えたこともあった。
 だが、魔力を可燃物質としていても、酸素は普通に供給されていると考えていた。
 しかしそれは間違いだった。
 火魔法では酸素は必要なかったのだ。
 では魔力は可燃物質と酸素の特性を持っているということなのか。
 否、そうではない。
 そもそも雷魔法に関して、魔力を接触させた場合、電流を走らせるという結果が出た。
 そのことから魔力は可変性の何かしらのエネルギーで、触れる現象によって反応が違う、いわば増幅、あるいは現象状態を保持したまま現象を起こすような特性を持つもの、だと僕は認識している。
 それに加えて酸素は必要ないとわかった。
 これは魔力がその現象の必要な要素すべてを補っているということだ。
 酸素がなくとも、可燃物質がなくとも、火という現象に接触させたことで、同条件上でなくとも、魔法は維持されるということ。
 つまり魔力は、どんな状況でもその現象自体を増幅させ続けることができるということだ。
 しかし水をかけると火魔法は消えた。 
 これについてはやや疑問は残るけど、もしかしたら火の魔法だから、なのかもしれない。
 つまり火の魔法であるが故に、水が苦手。
 反対属性のものだから、相殺されたということ?
 うーん、この部分はまだ曖昧だな。
 水で消えたという部分に関しては保留にしておこう。
 フレアの火は、物質に特殊な影響を及ぼす。
 雷鉱石の特性をなくさないように加工もできたし。
 ただの火ではない、ということはわかった。

「でもそれがわかったからって、何かあるの?」
「まだ何とも。ただ普通の火とは違うってことはわかった。
 これは雷魔法の方も同じだろうね」

 と、その瞬間、閃いた。
 僕は勢いよく立ち上がり、中庭の中心に移動した。

「どうかしたの?」
「姉さん、ちょっとやりたいことがあるんだ。
 姉さんは、魔力の体外放出はできるでしょ?」
「ええ、できるわよ。魔力放出量が少なくて、あんまり安定しないけど」

 姉さんもフレアは使える。
 ただし僕の魔力放出量よりもかなり少ないためか、火の維持があまりできない。
 そのため体外放出してからすぐに消えてしまうため、まともに扱えていない。
 僕の放出量が60なら、姉さんは20から30程度だと思う。
 ただ魔力のコントロールは僕よりもうまいと思う。
 手のひらの上で魔力の光を複雑に動かしたりもしてるし。
 僕はまだできない。

「じゃあ、僕がそこにフレアを撃って、空中で止めておくから、そこに魔力の塊をぶつけてくれる?
 一応、離れて撃ってね」
「それは構わないけど」

 首を傾げつつも了承してくれた。
 フレアには酸素も可燃物質も必要ない。
 そしてフレアは魔力を燃料に姿を保っている。
 だったらフレアが発現している状態で、魔力を与えればどうなるか。
 火に火を当てても、普通は意味がない。
 薪のような燃料なり、酸素なりを供給すれば別だけど、火という現象自体は重ならない。
 だけど火魔法はその存在自体が魔力の消費をしているもので、フレア自体がすべての要素を兼ね備えている。
 つまりフレアに魔力をぶつければ、さらに強力なフレアになるのではないか。
 僕はそう考えた。
 僕は空中にフレアを放つ。
 虚空で停止したフレアに向けて、姉さんが魔力を放った。
 さてどうなる。
 一気に燃え上がるか。
 それとも火力が上がるか。
 または特殊な、色の変化が起きたりして。
 僕は期待を胸に、結果を待った。
 接触
 そして。
 ドカンというけたたましい音。
 衝撃と豪風が僕を襲う。
 熱と光が発生し、僕の視界を埋めた。
 それは一瞬の出来事。
 青い炎が弾け、空中で爆炎を放った。
 間違いなく、それは『爆発』だった。

「きゃっ!」

 姉さんの悲鳴が聞こえた。
 慌ててそちらを見ると、どうやら尻餅をついただけのようだった。
 僕がほっと胸をなでおろした瞬間、炎は跡形もなく消え去った。
 空中での現象だったために、周辺に被害は残っていなかった。

「な、何だったの、今の!?」

 姉さんは目を白黒させている。
 僕も動揺している。
 まさか、あんなことになるなんて思わなかった。
 どうして?
 ただ魔力を供給しただけなのに。
 なぜ、爆発なんてしたんだ?
 急激な魔力供給によって暴発した、と考えるのは難しかった。
 なぜなら僕の魔力放出量の半分以下の魔力を供給した程度で、フレアの威力が著しく上がるとは思えなかったからだ。
 あの爆発は明らかに、かなりのエネルギーを内包していた。
 魔力をぶつけただけという理由で。
 僕は立ち上がり、姉さんの手を引き、起こしてあげた。

「大丈夫、姉さん?」
「う、うん。ちょっとびっくりしたけど……シオンはこうなるってわかってたの?」
「ううん、僕もこんな結果になるとは思わなかったよ。火力が上がるくらいだろうなって思ってた」
「そ、そう。どうしてあんな風になったのかしら。魔力が触れただけなのに」

 そう魔力が触れただけ。
 触れただけで爆発した。
 まるで爆薬に火が着いたみたいに。
 魔力が爆薬?
 そんなまさか。
 いや、待てよ。
 魔力は可変性物質だと僕は考えている。
 それは多分間違ってないと思う。
 でも、そもそも何か引っかかる。
 魔力は火に触れると燃えた。
 魔力は電気に触れると放電した。

 火、燃える、酸素、可燃物質。

 電気、流れる、放電、雷。

 電流……電流?

 僕ははたと気づき、すぐに庭の隅にある雷鉱石に近づいた。

「シオン!? どうしたのよ!」

 姉さんが急いで僕の後を追ってくる。
 僕はすぐに魔力を生み出し、雷鉱石に触れさせた。
 電気が魔力を伝う。
 電流の形は『茨』のようだった。
 雷の印象そのまま。
 しかしなぜ電流がこのような形になるのか、その理由を考えれば疑問は氷解した。
 魔力の中を走る電流は、なぜか『大気を走る雷と同じ形をしている』のだ。
 これはどういうことか。
 僕は魔力を手のひらの上に生み出す。
 淡く光るそれは、魔力。
 魔力であるが――そうではなかったのだ。

「そ、そうか! そうだったんだ! これは魔力じゃない! 魔力じゃないんだ!」
「え? で、でもそれが魔力だってシオンが言ったんじゃない」
「うん! そうだよ、これは魔力! でも魔力じゃない!
 これは『魔力に反応している空気』だったんだ!」

 僕は確信と共に、魔力を眺める。
 そうだ。
 魔力は体外放出、帯魔状態では光を放っている。
 それはつまり大気と反応しているということだったのではないだろうか。
 光の増幅は紫外線?
 日光に反応してるのか?
 それならば熱が発生していることにも合点がいく。
 その時点では魔力が空気に反応しているとは判断できない。
 だけど、雷魔法の発動には明らかに空気抵抗があった。
 フレアには酸素は必要なく、魔力だけで燃焼している。
 そして雷魔法は空気抵抗がある状態。
 これはつまり魔力が酸素の役割を担っているということ、現象の増幅をしているということの布石でもあったのでは。
 これだけではその事実はわからない。
 だがフレアは確かに酸素なしで燃えたし、フレアに大して、酸素に反応した魔力を与えると爆発した。
 魔力が現象、いやこの場合は物質に反応し、その対象の特性を増幅するのなら。
 体外放出した魔力は酸素を多分に含み、その特性を増幅させたもの。
 それがフレア、つまり火に接触した。
 過剰な酸素供給によって、あるいはそれに類する何かの反応によって――爆発したのではないか。
 魔力は放出した段階で空気に干渉しているため、その特性に影響を受けている。
 そうなると一つ疑問が浮かぶ。
 ではなぜ空気干渉した魔力が普通の火に接触した場合は爆発しないのか。
 これは普通の火と魔法の火であるフレアの特性が違うということだろう。
 そして、魔力は魔力同士で干渉し、反応する。
 それはゴブリンとの戦いで魔力に接触すると反応があることも知っているので、間違いではない。
 つまり増幅した魔法を、空気に触れた魔力で増幅させたことで、魔法が爆発的な威力を生み出した。
 それが先ほどの爆発なのではないか。

「ああ、ああ! こ、これは、かなりの進展になっているかも!
 来た来た! 来たよ。これは! うへっ!」

 僕は興奮し始めていた。
 大きなきっかけが目の前に訪れた。
 これは間違いない。 
 ブレイクスルーの機会が訪れたのだ。

「また変な顔してる……もう、嬉しそうにしてるからいいけどさ」
「姉さん! 姉さん! ちょっとこっち! 手伝って!」
「はいはい、どうすればいいの?」
「僕が雷魔法を使うから、そこに魔力をぶつけて」
「……また爆発するんじゃないの?」
「僕の見立て通りならしないよ! でも、少し離れてね!」

 テンションが上がりすぎてしまっているため、自分の言動がよくわからない。
 でも止まれそうになかった。
 僕はできるだけ長い魔力の棒を生み出して、雷鉱石に触れさせた。
 姉さんに合図をして、棒の先端部分に魔力を当てて貰う。
 電流は一瞬。
 だけど、先んじて姉さんの魔力を触れさせていたため、その先端はよく見えた。
 電流はその接触点から消えてしまった。

「消えた……? どうしてかしら。フレアは爆発したのに」
「空気抵抗があるからね。大気に触れている魔力が、電流を阻害したんだと思う。
 つまり、これで間違いない!
 この魔力は大気に触れて、空気や酸素を、他の現象と同じように増幅してる!」
「……全然わかんない」
「僕もよくわかんない! でも、わかるかもしれないってことはわかった!」

 僕は喜びを隠そうともせず、浮き足立っていた。
 そんな僕の様子を姉さんは、嬉しそうに眺めてくれていた。
 この瞬間が好きだ。
 魔法の研究では、頓挫したり、上手くいなかったり、失敗したりもする。
 でも時々、こうやって進展がある。
 これがたまらなく嬉しく楽しい。
 研究とかしている人は、こういう快感を得ているから、やめられないのかもしれない。
 今日からまた新たな境地に足を踏み入れるだろう。
 そういえば今日は母さんが出かけている。
 そのため爆発がしても家から出てこなかったのは助かった。
 さすがにこれだけ騒ぎを起こせば、問題視されていただろうし。
 一先ずは。
 この魔法を『合成魔法』と名付けることにした。

 目次 <<第28話 第30話>>

【第28話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 父さんと母さんが帰ってきてさらに数十分後。

「できたぜ!」

 雷鉱石の精錬が終わった。
 グラストさんは額から流れる汗を拭う。
 テーブルの上には二つのインゴットがある。
 砂と粘土でできた鋳型に入れて冷やしたものを、先ほど取り出したばかりだ。
 見た目は……少し違っている。
 ただの火で精錬した場合、青かったが、今度は赤い。
 明らかに何らかの変化は生じている。
 期待と不安を胸に、僕はグラストさんを見た。
 グラストさんは頷くと、マイカの布を手にして、二つの金属を近づける。
 と。
 バチッ、という鋭い音が生まれ、部屋が一瞬だけ照らされた。

「うおっ!?」

 グラストさんは驚き、のけ反ったが、金属は落とさない。
 茨の道が一瞬だけ見えた。
 しかしその威力自体は、大したものではなかった。
 鉱物同士の反応に比べれば。
 ただし、鉱物は相当な重量と質量であり、今グラストさんが持っている金属小判程度の大きさ。
 これだけ小型の状態で、電気発生があるのならば十分だ。

「で、電気反応が起きたぞ!?」
「おお!」

 姉さんと父さんと母さんが一斉に拍手をしてくれた。
 何かよくわからないけど、僕とグラストさんは照れながら、後頭部を掻いた。

「で? これが何になるんだ?」

 グラストさんの疑問は最もだけど、喜んだ本人がその疑問を口にするのかとも思った。
 僕は苦笑して、テーブルに近づく。

「ちょっとその布貸してもらえます?」
「ああ、いいぜ」

 マイカの布を借りて、金属に触れる。
 近くで観察すると、どうやら個体の電気反応はないらしい。
 つまり相互反応はあるが、個体で断続的に電気を発することはないということ。
 僕はマイカを置いて、金属に直接触れてみた。
 一瞬、家族達が何か言おうとしたのがわかったけど、僕は構わず金属を握る。
 やはり反応はない。
 一個体では何も発生しないようになったらしい。
 いや、微妙に髪がもわもわする。
 ああ、静電気が通っている時みたいな感じが。
 ということはまったく電気反応がないわけではない、ということだろう。
 静電気のように電荷の移動が行われているということか。
 つまり常に帯電している状態、ということかな。
 マイカで金属を持ち、鉄に近づけてみた。
 何も発生しない。
 これはつまり、同金属以外には反応しないということらしい。
 しかし人体には影響がある、と。
 かなり特殊な結果になったな。
 でも、これはこれで思った以上の成果が出たと言えるだろう。

「お、おい。何してんだ?」
「色々と試してみました。うん、なるほど、わかりました」

 今まで静観していた父さんが口を開く。

「一体、何がわかったんだ、シオン」
「とりあえず、この金属で多少は商売になりそうってこと。
 他にもいるものがあるけど、多分、結構売れるんじゃないかな」

 父さんとグラストさんが首を傾げて、顔を見合わせる。
 この二人仲がいいな、ほんと。

「ただ、時間がないので、かなり根を詰めて作業をしないと厳しいかもですけど」
「あ、ああ、三日くらいなら寝ずに作業しても問題ねぇ。何をすりゃいい?」
「……あの、今さらですけど、いいんですか? 僕みたいな子供の話を信じて」
「正直、半信半疑な部分もあったけどよ、ここまでいろんなものを見せられちゃな。
 それに、俺なりに試行錯誤して行き詰ってたからよ、今さら子供も大人もねぇさ」

 グラストさんはニカッと笑い、僕の頭をガシガシと撫でた。
 言葉遣いは荒いけど、寛大な人だ。
 こういう人が、あらゆる分野で成功するのかもしれない。
 僕は大きく頷き、説明を始めた。

「とりあえず、この金属……えーととりあえず、鉄雷(てつらい)という名前にしましょう。
 この鉄雷を作ってもらいます。
 雷鉱石すべて精錬することになるので、これでかなり時間がかかります。
 二種類の鉄雷を作って欲しいんです。一つは小粒の鉄雷。形状は真円がいいでしょう。
 もう一つは長方形の鉄雷。先ほど作った程度のものでいいかと思います。それを――」

 僕が説明をしている間、全員が真剣な表情を聞いてくれた。

「――以上です。できそうですか?」
「多分な。まあ、三日で全部加工するのはできるか微妙だけどよ。
 試作品くらいならすぐにできると思うぜ」
「じゃあ、それで。頑張りましょう」

 僕がグッと拳を握ると、グラストさんも拳を見せてくれた。
 互いに拳をぶつけ合うと、頷き合う。

「それでは僕は鉱石を砕いて持ってきますので」
「は? いや、て、手伝うつもりか?」
「え? はい。そのつもりですが」

 ぽかんと口を開いて、グラストさんは呆れた様子だった。

「俺はおまえにアイディアを出すことだけを頼んだ。これ以上は、さすがにわりぃ」
「ですが、一人でするのは難しいと思います。
 それにですね、途中で問題が生じた場合、どうするんです?
 一人で解決できない場合、もしかしたら僕のアイディアが必要になるかもしれない。
 だったら、一緒に最後まで作業するのが当然ではないですか?」

 隣で姉さんが何度も頷いてくれていた。
 なぜかちょっと興奮した様子で、鼻息が荒かったけど。
 後ろからは二つのため息が聞こえ、正面からは動揺の色が見えた。

「シオンは言い始めたら聞かない。それにシオンの考えは正しい。
 ……私達も三日間、付き合うとしよう。村人には留守をするかもしれないと事前に話をしてある。
 嫌な予感は的中したというわけだ」
「あらあら、イストリアに宿泊するのなんて久しぶりだわぁ。
 なんだかわくわくするわねぇ。うふふ」
「あたし、一杯お手伝いするから! グラストおじさん、何でも言ってね!」

 家族全員が協力的だ。

「……すまねぇ、じゃあ頼む。ああ、あんまり無理はしないでいい。
 少し手伝ってくれるだけでありがたいからよ」
「ええ、大丈夫。無理をするつもりはないですから」
 グラストさんは呆れたように、嬉しそうに笑う。

 そしてその日から、僕達の戦いは始まった。
 
   ●○●○

 担当区分は明確だった。
 父さんは雷鉱石を砕く役。
 かなりの力仕事なので、子供の僕や姉さんでは時間がかかりすぎるからだ。
 そして砕いた雷鉱石は僕と姉さんでグラストさんの店まで運んだ。
 これが中々距離があり大変だった。 
 砕くよりも運搬の方が時間がかかるため、鉱石を砕き終えた父さんも、運搬の手伝いをしてくれた。
 グラストさんは集めた雷鉱石の精製をひたすらに続けた。
 これが一番時間がかかり、根気も技術も必要だ。
 精錬窯はあまり大きくないため、一回の精錬では雷鉱石数個分しかできない。
 しかも相当な火力のある窯の近くにいないといけないため、かなり体力を奪われる。
 木炭や素材を十数回に分けて投入する必要があるためだ。
 それをひたすらグラストさんは続けた。
 辛いだろうに、何も言わず、何というか男の背中を見せてくれた。
 ちなみに母さんはというと。
 それは三日目にわかるだろう。
 作業を始めて三日。
 僕達はすべての雷鉱石の加工を終えた。
 そして。

「お、終わったぜ……」

 地面に倒れるグラストさんと僕、姉さん。
 父さんと母さんもかなり疲労しているらしく、顔に生気がない。
 それもそのはずだ。
 グラストさんは三日三晩寝ていないから一番疲れていることは間違いない。
 しかし雷鉱石の運搬やらが思った以上に時間がかかり、結局、僕達もかなり作業時間を費やした。
 きちんと睡眠はとっているけど、やはり子供の身体では体力がない。
 家族の中では父さんが一番働いたと思う。
 僕達の分までやってくれた。それでもかなりギリギリだったので、後半は相当急いだ。

「さすがに眠りてぇ……けど、まずは完成品の状態を確かめるか」
 グラストさんは強引に身体を起こして、背中を伸ばした。
「そうですね。動作は問題ないでしょうけど、一応確認しましょう」

 試作品を何回か造り、動作確認はしている。
 ただ、念には念を入れよう。
 僕達は鍛冶場を出て店の裏庭にある倉庫へ向かった。
 雷鉱石を保管していた大規模な倉庫と違ってこじんまりしているが、それでも倉庫は倉庫。
 それにここには僕達の苦労の結晶達が眠っている。
 八畳くらいの倉庫の扉を開けると、木箱が無数に積まれている。
 僕達は一つ一つを外に出して、中身を取り出す。
 完成品は二種類。
 一つは『雷光灯(らいこうとう)』だ。
 これはやや薄く伸ばした長方形の鉄雷を二枚、一定距離に配置しており、マイカを何枚も張り合わせた絶縁体が二枚の鉄雷の壁になっている。
 鉄雷を両端に配置し、その二つを繋ぐように湾曲したガラスを張っている。
 当然、接地面には間材を入れて、念のため電気が接しないようにしている。
 その上から垂れ幕のようにしたマイカを乗せているのだ。
 丸い蓋の中央部分に垂れ下げているため、蓋をすると、必然的に電気の流れを止めることができる。
 下部には据え置けるように持ち手がある。
 見た目はグラスに近いけど、それよりも少し大きいだろう。
 マイカの蓋をしている状態では何も起きない。
 しかし蓋を外すと、鉄雷同士が反応し、電流を走らせる。
 通常、電気を流すと不安定で、灯りとしては些か扱いにくい。
 だが鉄雷同士での共鳴放電は比較的安定しているため、太い円柱状の電気が流れるようになる。
 そのため、光源としては十分な効果があると言えるだろう。
 ただどれくらい持つのかはわからないけど。

 もう一つは『発雷石(はつらいせき)』だ。
 見た目はほぼ携帯型の火打石と一緒。
 短いピンセットのような形をした金属の先端に、鉄雷がはめられている。
 鉄雷は他金属に放電しないという特性があるため、それを利用したもの。
 火花放電では着火させるのは簡単ではない。
 そのため、僕は鉄雷同士を近づけ、発生した電気で着火する装置を発案した。
 これがあれば、魔法が使えなくとも、簡単に火を着けることが可能だ。
 火打石は壊れやすいけど、発雷石は衝撃を与えないため、しばらくは持つだろう。
 細工、裁縫関連は母さんがやってくれた。
 母さんはかなり器用で、職人レベルの技術力を持っていた。
 この二つが、僕が提案した商品だった。
 灯りと着火。この二つは生活する上で必須なのに、かなり不便に感じていた。
 もしこの商品があれば、かなり便利になる、と思ってのものだった。
 使ってみたけど、結構いい感じだと思う。
 みんなの反応も上々だったし。
 全員で商品を確認する。
 問題はなかったようだ。

「今度こそ、本当に終わりだ! みんなありがとよ、お疲れさん!」

 グラストさんが声を張り上げると、全員が安堵の表情を浮かべた。
 普段はしないが、家族全員で庭に座り込んだ。
 父さんも母さんも疲労から、立ち上がる気力もないらしい。

「しかし、ほんとすげぇよ、シオンは……こんなものを思いつくなんてな」
「ああ、大したものだ。私も鼻が高いぞ」
「シオンちゃんは本当に賢いわねぇ。お母さん、自慢しちゃいたいくらいよぉ」

 大人三人から率直に褒められて、悪い気はしないが、居心地が悪い。
 ふと、マリーの反応が気になった。
 また嫉妬してしまうのではと思ったのだ。 
 しかしマリーはなぜか自慢げに鼻を鳴らしていた。
 なんでこんな反応になるのだろうか。
 女の子って本当にわからない。

「でも、売れるかどうかはわかりませんよ」
「売れるに決まってる。こんだけ便利なもんなんだからな。
 それに、もしも売れなくてもいいさ。俺はこれがすげぇ発明だと思ってるからな。
 ……みんな、本当にありがとう。本当に助かった。特にシオン。
 おまえのおかげで、ここまでできた。ありがとよ」

 グラストさんは真っ直ぐな感謝を述べ、僕達に頭を下げた。
 本当に器が大きく、素直な人だ。
 まあ、自業自得の部分もあるけど、それはそれ。
 他人に対してこれほど率直に感謝ができる人は多くないと思う。

「いいんです。僕も楽しかったし、色々とためにもなりましたし」
「うんうん。そうよね! あたしも楽しかった」
「うふふ、お母さん若いころを思い出しちゃったわぁ。
 みんなで何かを成し遂げるって、楽しいことだったのよねぇ」
「気にするなグラスト。その感謝の思いだけで十分だ」

 僕達の言葉を受けても尚、グラストさんは顔を上げなかったけど、数秒後、ゆっくりと顔を見せた。
 その瞬間、僕達は四人同時にびくっと肩を震わせた。

「お、おまえらぁ、ほんどにいいやづらだなぁぁぁ、うっううっ、おれぁ、しあわぜもんだぁ。
 ありがどよぉ、ありがどよぉぉっ! うおおおっ!」

 号泣だった。
 もうそれは本当に見事に泣いていた。
 男泣きという奴だろうか。
 しかしすごい泣いている。
 それほど感動してくれたのは、こちらとしても嬉しいけど。
 引くくらい泣いているため、僕達はどうしたものかと顔を見合わせた。
 しかし、なぜか笑いがこぼれてしまう。
 これは嘲笑じゃない。
 ただ、心が温かくなり、笑いが生まれた。
 僕達は笑い合い、グラストさんは泣き続けた。
 カオスな空間だったけど、なぜか幸せな空間でもあった。

   ●○●○

 翌日の朝。
 一日を休息に使い、僕達は身支度を整えて、馬車に乗っていた。

「もう行っちまうのか。なんか寂しくなっちまうな」
「おまえにしては珍しく弱気だな。売れるか不安なのか?
 悪いがそこまでは面倒はみれんぞ。私達も帰らねば、村民を放ってはおけんからな」
「わ、わかってるっての! 不安はあるさ。
 みんなが手伝ってくれたのに、売れなかったらどうしようって思うしよ」

 この人、本当にいい人なんだな。
 なんかグラストさんの株が僕の中で急上昇してる。
 大人でも全員がしっかりしてるわけでもないし、完璧なわけでもない。
 僕はそれを知っているし、僕もそういう大人だった。
 だから、わかる。
 そしてグラストさんはそういう大人な部分と弱い部分を隠すような弱さがない、強い人だ。
 それが好ましく、親しみを覚えた。
 父さんは嘆息しつつ言った。

「物は腐るわけでもあるまい。売れなければ、また手伝いに来よう」
「おいぃ、やめろよ、そういうこと言うと、また泣いちまうだろ」

 本当に泣きそうな感じになってきたので、父さんはこれくらいで許してやるかと小さく漏らした。

「では、私達は行くぞ。またなグラスト」
「元気でね、グラストおじさん!」
「グラストくん、身体に気を付けるのよぉ! ご飯食べて、ちゃんと寝なさいねぇ!」
 三人が別れを告げる中、グラストさんはぐっと唇を引き絞って、手を振った。
「ありがとよ! 本当にありがとう! 助かったぜ!」

 馬車は進み始める。
 手を振るグラストさんとの距離が開いていく。

「シオン! おまえ本当に大した奴だ! 何かあったらすぐに言えよ!
 絶対に助けるからよ! 礼もきちんするから! 待ってろよ! じゃあな! またな!」

 ぶんぶんと腕が千切れそうな勢いで、グラストさんは両手を振った。
 僕達の姿が小さくなってもずっと、ずっと振り続けていた。
 やがて見なくなり、街道の通行人や馬車達が僕達の姿を隠した。

「なんか寂しくなるね」
「ああ。だが、すぐに会える。また来よう」
「……うん」

 僕は感傷に浸っていた。
 普段はこんなことはないのに、自分でも思ったより、グラストさんのことが好きになったらしい。
 まっ、そういう感情的な部分もあるけど、別の部分が気になってもいる。
 さて、グラストさんは僕の要望を叶えてくれるだろうか。
 完成してから、僕の要求はすでに伝えてある。
 グラストさんがもしもその願いを叶えてくれたとしたら。
 間違いない。
 僕の『魔法』は劇的に変わるだろう。
 今はその期待と一つの大仕事を終えたという達成感を胸に、休息としよう。

 目次 <<第27話 第29話>>

【第27話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

「うわぁ……」

 僕は思わず声を漏らしてしまった。
 それも仕方ないと自分で思う。
 かなり広い倉庫は、雷鉱石で占められており、ビカビカと断続的に眩く光っていたからだ。
 数十センチの間隔を空けて並べられている雷鉱石は圧巻だった。
 積み重ねることも、何かに接触させることもできないためか、床に理路整然と並んでいる。
 見た目は綺麗と言えなくもないが、電流が何かに触れて、火が着けば家事になることは間違いない。
 危険と隣り合わせの状況だった。
 僕は頬を引きつらせて、後ろを振り返った。
 父さんは頭を抱えて、姉さんは僕の腕にくっついたまま、ぼーっと雷鉱石を見ている。
 母さんは困ったようにしていて、グラストさんは引きつった笑みを見せた。
 どうすんのこれ。
 話には聞いていたけど、実際に見るとこれは、何というかヤバい。
 もうヤバい。語彙力がなくなるくらいにヤバい状況だ。

「一晩中光るだけならまだいいんだけどよ、バチバチっていう音がうるさいって、苦情があってよ。
 騒音をどうにかしないと倉庫を貸さないって言われてんだ。
 三日後の夜までにどうにかしねぇと、この倉庫も借りれなくなっちまう。
 他にいい感じの倉庫はねぇし」
「期限は三日ってことですか」
「ああ、まあ、できなきゃできねぇで、鉱石を鉱山に返せばいいだけだ。
 まあ、鉱山に鉱石を入れるにもまた金がかかるけどよ。
 それに全部無駄になって、相当な赤字になっちまう。
 雷鉱石にかかりきりで、最近はあんまり店も開けてねぇし」

 別に期限はいい。
 期限内にできなければ不利益を被るということはないし。
 ただ思っていた以上に、状況はまずいということは理解した。
 百個って聞くとそれほどでもないけど、見るとかなり多い。
 ただ一番大きい雷鉱石でも僕でも持てるサイズだったのは不幸中の幸いだ。
 もっと巨大なものもあるのかと思っていたから。
 僕は倉庫内の状況を観察する。
 どんなことが解決の糸口になるかわからない。
 できるだけ状況を正確に記憶すべきだろう。
 そんな中、僕は少しだけ疑問を持った。

「どうして、雷鉱石同士の間隔を空けてるんですか?」
「それなんだが、実は近づけると特殊な状況になっちまってな」
「特殊な状況?」

 グラストさんは壁にぶら下げてあった布らしきものを手にする。
 見た感じ、マイカを縫い合わせたような見た目をしている。
 あれからグラストさんなりに改良したのだろう。
 それを手にして近場の雷鉱石を押して、別の雷鉱石に近づけた。
 すると双方の雷鉱石が、突如として著しく電流を発生させた。
 互いに反応し、互いに電気を流し始めている。
 電気を流している伝導体を近づけたような感じだ。

「こうなっちまうと、かなり激しく電気が流れ始めて、危険だろ?
 だからそれぞれ離して配置してるってわけだ」

 電気反応か。個々での現象ではなく、きちんと相互に反応しているようだ。
 個別で発生している電気は断続的だけど、相互に反応している状況では比較的安定している。

「雷鉱石の精錬はしてますか?」
「あ、ああ。まあ、一応は抽出して、鍛造までした。
 融点も低いし、ウチにある精錬窯で十分だったから、大して難しくはなかったんだけどよ。
 問題があってな……一度、俺の店に戻るか」

 何やらまだあるらしい。
 僕達はグラストに続いて、グラストさんの店に向かった。
 しばらくは店休日にしているらしい。
 薄暗い店内に入り、そのまま奥の扉を通って、奥の部屋に入った。
 そこはどうやら鍛冶場らしく、大きな窯と鍛冶道具、壁にはハンマーややすりなどが立てかけており、部屋の隅には煉瓦が積まれていた。
 道具はかなり使い込まれていることがわかる。
 部屋の端にあるテーブルの上に会った金属を手に取ると、グラストさんは僕に渡してきた。
 受け取ると、見た目よりも軽い印象を受けた。
 鉄ではないみたいだ。見た目は少し青いように見える。

「これは?」
「雷鉱石を製錬して、鍛造した金属だ」

 その割には、普通の金属に見える。
 ちょっと青い鉄、みたいな感じだ。
 純度はそれなりらしく、表面は滑らかで、比較的うまく製錬しているといえるだろう。
 でも、雷鉱石の特徴がなくなってしまっている。
 電気の発生は微塵もない。

「電気反応というか、さっきみたいな、接触させたら電気が発生したりはしませんか?」
 グラストさんがもう一つを渡してきた。
「試してみな」

 この反応をするということは、すでにグラストさんも試してみたのだろう。
 僕は二つの金属を触れさせてみた。
 反応は、やはりなかった。

「うーん、あの、雷鉱石の冶金って、どんな工程でやるんです?」
「あ、ああ。まず雷鉱石をハンマーで砕いて、粗目状態にしてから、精錬窯に入れて、特殊な素材を幾つか入れて、木炭で燃焼してから、不純物を取り出して、その後、凝固する前に鋳型に入れる。
 その時点だとかなり粗悪品だったからな、一応鍛造として、ハンマーで叩いておいた。
 強度は上がったけど、普通の金属には劣るな」
「電気発生がなくなった段階はどの時ですか?」
「砕いた時点では、ほんの少しは電気反応があったぜ。
 その後、燃焼して、融点に達した後、かもしれねぇな。
 そこからはある程度、工程がひとつなぎだからよ。詳細はわかんねぇ。
 燃焼させたからか、単純に抽出したからか……それとも単純に投入した素材が悪いのか」

 聞くに、銑鉄の作り方に近いような気がする。
 もっと突き詰めれば鍛造方法も変わるだろうし、抽出工程も違う。
 煉瓦があるということは製鉄の際には塊鉄炉を使うのかもしれない。
 高炉のような水車を使う、大規模なものは一個人の鍛冶屋が持つことは難しいだろうし。
 砕いた時点ではまだ電気反応はあった。
 となると、その後のどこかで特性を失ってしまったと考えられる。
 普通に考えると燃焼、過熱により個体から液体になったことから、特性を失ったんじゃないだろうか。
 しかし金属を加工するには一度溶かすなり、熱すなりするのが一般的だと思う。
 詳しくはないのでわからないが、この世界ではそれ以外の金属加工技術はあまりないように思える。
 となれば、燃やすということを前提で何か考えるべきだろうか。
 燃やす。燃やす、か。
 僕にとって燃やすといえば、フレアだ。
 フレアは火打石の小さな火花放電で、着火した火魔法。
 この時代、この世界では、着火させるのは結構大変らしい。
 そのため、家では僕の魔法を使って火を着けることが多い。

 青い火だけど、普通の火と変わらないし。
 ……普通の火?
 普通の火、なんだろうか。
 火は火でも、魔法の火。
 見た目は青いし、魔力で燃えている。
 もちろん、着火時には魔力を使っているが、可燃物質に火が着いてからは魔力は投入していない。
 それでも燃え続けるわけだけど。
 物は試し。
 やってみてもいいかもしれない。
 ただの閃きだけど。

「父さん、いいかな?」

 僕は懐から携帯火打石を取り出すと、父さんに見せた。
 これだけで僕の意図が伝わったのか、少しの間を空けて父さんは頷いた。

「ああ、いいだろう」

 特に迷いはない、か。
 まあいいか。別に。
 考えてもわかることじゃなさそうだし、あまり興味もないし。
 僕はグラストさんに振り返ると、口を開く。

「ちょっと試したいことがあるんです。精錬準備をしてくれますか?」
「まあそれは構わねぇけどよ。何をするんだ?」
「見てのお楽しみということで」

 怪訝な顔をしたが、グラストさんは特に質問をせずに、せっせと精錬準備を始めた。
 窯には砕いた木炭が入っている。

「できたぜ。で、どうすんだ?」
「これから、僕が火を着けます。後は今まで通り、精錬をしてください」
「それだけか?」
「ええ。あまり意味がないかもしれませんが、あるかもしれません」

 これは問題解決のための試行錯誤であり、僕の魔法実験でもある。
 僕は魔力を右手に集めて、火打石を叩く。
 放たれた魔力が着火し、青い火が生まれた。

「うお!? な、ななな、なんだこりゃ!!?」

 驚くグラストさんを放っておいて、僕は窯に火を着ける。
 木炭は勢いよく燃え上がり、青い炎をその身に宿した。

「では、このまま作業を」
「いやいやいや! ま、ま、待て! 何もなかったかのように振る舞うな!
 い、今のなんだ!? 手から火が生まれたぞ!?」
「魔法です」
「……ま、魔法?」

 僕はちらっと父さんを見た。
 父さんは小さく頷く。

「ええ。魔法とは――」

 僕は簡単に説明した。
 父さんはあまり魔法のことを広めるのはよくないと話していたけど、グラストさんは長年の友人。
 だから問題ないと判断したのだろう。
 一通り説明すると、グラストさんはまだ動揺したままだった。

「こ、こんなもんがあるなんて、信じられねぇ……ガウェイン達は知ってたんだな」
「ああ。まあな」

 グラストさんと父さんが視線を交わす。
 二人の間に、どんなやりとりがあったのかはそれだけではわからなかった。
 ただ、グラストさんはなぜか諦めたように嘆息して、苦笑を浮かべた。

「そうか。まあ、実際に見ちまったんだから、信じるしかねぇ。
 とにかく、魔法っての? それの火で精錬すれば、結果が違うってことか?」
「どうでしょう。わからないです」
「わ、わかんねぇのかよ!?」
「ええ。僕もまだ研究中で、まったくもって魔法のことはわかりません。
 ですので、これはあくまで試しということで。
 ダメなら加工せずに鉱石を活用する方法をとるしかないですね。
 現状だと、かなり難しい気がしますけど」

 例えば、小粒の雷鉱石を使って、何かしらの便利な道具を作ることは困難だろう。
 なぜなら小さくなればなるほど放電量は減っているため、活用するのが難しくなる。
 電力をある程度確保するには、手のひら大くらいの質量は必要だ。
 少しは案があるけど、できれば比較的純度の高い状態で、小型軽量化して欲しいところだ。
 小さく利便性が高いものがどの時代でも有用だし。

「そ、そうか。まあいい。とりあえずやってみることにする。
 小一時間はかかるから、外をぶらついて来ていいぜ」
「いえ、僕はどうなるか興味があるので、見学してます」
「シオンがいるならあたしも残るわ」

 僕が言うと、姉さんは即答した。
 僕の腕にしがみついたまま離れない。
 なんというか、嫌じゃないけど、ちょっと動きにくい。
 というかグラストさんの視線が何とも複雑そうで、こっちも複雑な気分だ。

「私とエマは少し用事があるから、すまんが二人のことを頼むぞ」
「ああ、任せとけ」
「シオンちゃん、マリーちゃん、また後でねぇ」

 ひらひらと手を振る母さんに向かって、僕達も手を振りかえす。
 父さんと母さんは鍛冶場から出ていった。
 精錬窯の前に佇んでいるグラストさんの背中を眺める。
 子供から見る大人は色々な意味で大きい。
 僕も大人だったはずなのに、大人だったということを忘れてしまう時がある。
 二度目の人生を歩むというのはなんというか、変な感覚だ。
 火が煌々とゆらめく。
 室温が上昇し、肌が汗ばんだ。
 しかし姉さんは離れない。

「言い忘れてたんだけどよ。終わった後、何かしらの礼はするつもりだ。
 何か考えておいてくれ。ああ、成功してもしなくてもするつもりだからな」

 僕達に背を向けた状態で、グラストさんは話した。

「それなら幾つか考えていることがあります」
「い、幾つか、か。あんまり高い物とかは勘弁してくれよな」
「どっちもお金は必要ないので、大丈夫ですよ」
「そうかい。それなら安心だ。で、なんだ?」
「その前に一つ質問があるんですが。グラストさんは昔父さんと旅をしていたんですよね?
 父さんは剣術が扱えますし、グラストさんも戦えるんですか?」
「ああ、まあな。武器を扱う鍛冶屋だからか、大半は武器を扱える。
 俺もご多分に漏れず、それなりに強いぜ。ガウェインには負けるけどよ」
「そうですか。だったら大丈夫です。それとお願いは成功した時だけでいいです。
 ですから、今は話さないでおきます」
「遠慮するこたぁねぇぞ。子供が気を遣う必要もねぇ。
 って、頼んでいる立場の俺が、子ども扱いするのはちょっと情けねぇな」
「いえ、遠慮というより、僕の感情的なものといいますか。
 先に言うと、失敗してもグラストさんは引き受けようとする気がするので」 

 グラストさんは手を止めて、肩口に振り返る。

「……ガキの頃から思慮深いと疲れるぜ」
「これが地なので。思慮深いとも思いませんし」
「なるほど。こりゃ、ガウェインもあんな風に言うわけだ」

 僕と姉さんは顔を見合わせる。

「父さんが何か言ったんですか?」
「ああ、シオンがしっかりしすぎて、手間がかからない。もっとわがままを言ってほしい。
 もっと構いたいと言っていたぜ。最近はあんまり聞かなくなってきたけどよ」
「あ、ああ、そうですか……」

 思い当たる節があり、僕は頬を引くつかせた。

「最近は魔法の実験に付き合わせてるものね。
 でも、お父様も嬉しそうだし、いいんじゃない?」
「そ、そうなのかな」

 僕としてはあまり人に迷惑をかけたくないんだけど。
 でも親の立場からしたら、子供に頼られた方が嬉しいのだろうか。
 思えば、父さんは僕と実験をしている時は生き生きしてるような気が。
 そんなことを考えながら、僕はグラストさんの作業風景を眺めた。
 姉さんはさすがに熱くなったらしく、僕から少しだけ離れて、椅子に座りながら頬杖をつく。
 それから一時間、僕達はじっと待ち続けた。

 目次 <<第26話 第28話>>

【第26話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 自室。いつも通りの風景だけど、だからこそ落ち着く空間だ。
 僕はベッドに座りながら、じっと床を眺めていた。
 現状、魔法の研究は頓挫している。
 完全な行き止まりではなく、何か掴めそうで掴めないという感じだ。
 魔力には無限の可能性があるように思える。
 けれど僕は無知で、発想力も乏しい。
 もっと色々とやりようがあるような気もするけれど、今の状態は数日続いている。
 世の発明家は、きっとこんな懊悩を何度もしていたのだろう。
 彼等は努力をし、才能ある人間で、僕のような一般人とは違う。
 僕は才能がないのだから、才能ある人間より苦悩して当然だ。
 むしろこれまでとんとん拍子すぎた。
 あまりに事が上手く進みすぎていた。
 世界が僕に魔法を開発させようとしているかのように錯覚するほどに。
 でも、最近は遅々として進んでいない。

「問題は……雷魔法……か」

 雷鉱石に魔力を接触させる形で発生させても、実用性がない。
 フレアは携帯火打石があれば使えるけど、雷魔法を使用するには色々と条件が必要だ。
 それに思い通りの結果も得られない。
 今のやり方だと厳しいかもしれない。
 着眼点を変えよう。
 魔力をどうこうするのではなく、道具の方をどうにかした方がいいかもしれない。
 雷鉱石を、火打石のように思い通りに使えることができれば。
 雷鉱石は断続的に電気を発生させており、僕が意図するタイミングで電気を発生するわけじゃない。
 もしも意図的に電気を発生させるような道具ができれば、悩みはすべて解消するんだけど。
 さすがに道具を作る技術はない。
 そんなことをここ数日、考えている。
 と、コンコンと扉が叩かれた。
 ノックするということは父さんだろうか。
 扉を開けると、そこにいたのは予想とは違う人だった。

「よう、シオン」

 グラストさんだ。
 イストリアで武器防具屋を営んでいる鍛冶師。
 父さんの旧友で、姉さんの剣を作ってくれた人だ。
 僕は一瞬だけ驚いたけど、すぐに表情を繕った。

「グラストさん、こんにちは」
「あ、ああ、こんにちは。対応力がすげぇな、おまえ」

 僅かにたじろいだグラストさんは咳払いをすると、一拍置いた。
 色々と聞きたいことはあるけれど、部屋の前で立ち話するのはグラストさんに悪い。

「中へどうぞ?」
「いや、居間に来てくれるか? 話があんだ」
「話、ですか? わかりました」

 何の話だろうか。
 雷鉱石を手に入れた時、以来、グラストさんとは会っていない。
 僕は雷魔法の研究にかかりっきりだから、父さんが街に行く時も、僕は同行しなかった。
 姉さんと母さんが一緒に行くことはあったけど、僕は留守番していた感じだ。
 そういうことから、グラストさんが僕に要件があるとは思えなかった。
 まあ、別に後ろめたいことはないし、気にする必要はないと思うけれど。
 僕はグラストさんに続いて、居間へ向かった。
 そこには父さん、母さん、姉さんの全員が集合していた。
 椅子に座って、談笑している。
 空気はいつも通りなので、やはり問題のある話をするわけではないらしい。
 ただ、なぜかグラストさんに向けられている父さんの視線は、呆れが混じっていた。
 グラストさんは顔を逸らし、素知らぬふりをすると椅子に座った。
 座り位置は僕と姉さんが隣合わせ、対面に母さんと父さん、その隣にグラストさんが座っている。
 僕は姉さんを一瞥した、何の話なのか、という疑問を含ませる。
 姉さんはそれを察知してくれたのか、首を軽く横に振った。
 彼女もわからないらしい。

「あー、それで話なんだけどよ……」

 グラストさんは横目で父さんを見る。
 これみよがしの嘆息を漏らし、父さんが話し始める。

「シオン。雷鉱石を採取したことは覚えているな?」
「うん。覚えてるよ」
「うむ。実はな……あの後、このバカはシオンの知識を利用し、雷鉱石を採取したらしい。
 今まで、雷鉱石を運搬することはほぼできなかったからな。
 持ち帰り、商売にしようとしたらしい」

 グラストさんは天井を仰ぎ、誤魔化そうとしていた。
 ただまったく誤魔化せていないけど。

「ということでな……おい、グラスト。言うことがあるだろう」

 呆れと苛立ちをグラストさんに向ける父さん。
 そこまで言われては反応しないわけにはいかなかったのか、グラストさんは気まずそうに僕を見ると、鼻頭を掻きながら口を開く。

「あー、なんだ。その、すまんかった。おまえの知識を利用した。
 許可も得ず勝手に、雷鉱石を運んで、儲けようとした。悪かった」

 父さんは何度も頷きながら話を聞き、母さんは困ったように首を傾げていた。
 グラストさんは視線を泳がせ、居心地が悪そうだった。
 隣の姉さんを見ると、難しい顔をしていた。
 僕は考える。
 考えてはみたが、よくわからない。
 結局、思った通りの返答をするしかないらしい。

「別に問題ないと思うんですけど」

 そういうと、グラストさんはあんぐりと口を開け、父さんは一瞬だけ驚き、小さく嘆息した。

「い、いや、おまえの考えを利用したんだぞ、俺は」
「まあ、そうなるんですかね? でも別にいいのでは」
「しかしだな、誰も考えもつかなかった方法をおまえは思いついた。
 それを俺はおまえに何も言わずに利用したんだ。
 文句の一つの二つあって当然だし、金をよこせって要求も当然の権利だぜ?」

 言われてみればそうなのだろうか。
 確かに、商売のアイディアを渡したということになるのかもしれない。
 でも、僕は別に雷鉱石でお金儲けがしたいわけじゃないしなぁ。
 それよりも気になったのは別のことだった。

「儲かったんですか?」

 グラストさんは苦虫を噛み潰したような顔をしてしまった。
 あまり芳しくなかったみたいだ。

「小遣い程度にはなったな……ただ、労力と現状を考えると、割に合わなかったぜ。
 雷鉱石は灯りに使うには不便だし、危険だ。
 最初は物珍しさに買う人間もいたけどよ、すぐに客足が途絶えちまって……」

 あらら、いつものグラストさんと違い、しゅんとしてしまっている。
 乾いた笑いを浮かべて、テーブルを眺めている。
 目に光がない。
 もしかして、あの日から今まで、雷鉱石で商売するために、時間と労力を割いたのだろうか。
 本業を放っておいていたりしたんだろうか。
 まあ、そこまでは突っ込まなくてもいいか。

「じゃあ、僕は別に何もいりません。ものすごく儲かったのなら別ですけど。
 あまり、その……好調だったようには見えないですし」

 これでグラストさんの要件は終わりのはずだ。
 僕は謝罪を受けて、別にかまわないと返答したのだから。
 けれど複雑な空気は変わらず、グラストさんの態度も変わらない。
 一体どうしたのかと父さんを見ると、再びの嘆息を漏らし、口火を切った。

「実はな、問題はそれだけではない。先ほども言ったが、こいつは雷鉱石を運搬した。
 あの日から今まで、雷鉱石の運搬と商売に時間を費やしたらしくてな。
 大量に在庫が余っているらしい」

 嫌な予感がした。
 というかしていた。
 それが的中してしまったような感じだ。

「在庫が余ってる、ということは雷鉱石を倉庫かどこかに保管してるってことですか?」
「あ、ああ。最初は、数個だけだったんだけどよ、それなりに売れ行きがよくてよ。
 それなら一気に運搬した方が、効率がいいってんで、最初期にまとめて運んだのよ。
 倉庫を借りて、そこに置いてるんだけどよ」
「いくつです?」
「百個、くらいだな」
「小さめですか?」
「比較的大きめだな……」

 具体的な雷鉱石の大きさは知らない。
 だけど僕が見た感じ、僕の身体と同じくらいの大きさの雷鉱石があった。
 つまりそれ以上の雷鉱石を百個も集めて保管してしまっているかもしれないということだ。
 地球であればエネルギーとして扱えるし、多様性もあるだろうから、かなり儲けることができそうではある。
 ただ、それは電力を活用できる科学力があっての話だ。
 中世、江戸時代あたりで、電気があっても、それを扱えるような道具なんてないわけで。
 そうなるとただピカピカ光る置物にしかならない。
 僕は電気を使った何かを作る技術も知識もない。
 つまり、グラストさんはその置物を百個も抱えてしまっているというわけで。
 妙に憔悴しているが、何となく察してしまった。
 結構なお金を使ってしまったのだろう。
 倉庫代も馬鹿にならないだろうし。
 鉱山から雷鉱石を運搬する際のお金も積み重ねればそれなりの額になる。
 それがすべて無駄となれば、むしろ邪魔でしかない状態ならば、こうなっても仕方ないか。
 事情はわかった。けれど、どうして僕に話すのだろう。
 グラストさんはまるで、僕の心情をくみ取ったかのように、的確な話を始めた。

「そこで、おまえに頼みがあるんだ。雷鉱石をどうにか売る方法を考えてくれねぇか?
 雷鉱石の運搬をするための発想と知識がおまえにはあった。
 だから、おまえなら何とかできるかもしれねぇと……思った……んだけどよ……」

 あー、自分の情けなさに自虐的な思考に陥っているなこれは。
 段々萎縮して、視線が落ちていっている。
 普段は気の強い性格の人って、案外打たれ弱かったりするし。
 それに、子供に頼みごとをして、プライドが傷ついたのだろうか。
 わからないでもない。
 大人が子供に、頼みごとをするのは難しい。
 自分でできることを頼むならばいいけど、本当に困っているから助けて欲しいと言うのはかなり厳しい。
 大人にはプライドがあるからね。
 それがわかる分、何とも言えない気持ちになった。
 そしてそこまで追い詰められているのだろうと。
 ここまで足を延ばしたんだ、結構困っているんだろう。
 父さんも母さんもどうしたものかと顔をしかめている。
 グラストさんが、雷鉱石の運搬を手伝ってくれたのは事実だ。
 それに父さんの友人だし、放っては置けない。
 心情的には手伝いたいけど、安易に受けるのもどうだろうか。
 引き受けて、結局何もできませんでした、ではグラストさんに悪い。
 何か算段があってのことであればいいけれど。
 少なくとも今の段階では、何も案は浮かんでいない。
 けど。

「わかりました。僕にできることなら、やってみます」
「い、いいのか? こんな勝手な話なのによ」
「ええ。でも、何か案があるわけじゃないので、あまり期待はしないでください。
 できるだけのことはしますけど、内容が内容ですし、簡単ではないので」
「あ、ああ、それでいい。ありがたい、本当に助かる!」

 グラストさんは光明を得た、とばかりに笑顔を見せた。
 そこまで期待されても困るけど、僕は子供だ。
 さすがに全幅の信頼を置かれているわけでもないだろう。
 多分、どん詰まりでどうしようもない状態だったので、藁にも縋る思いで尋ねてきたんだと思う。
 少しの希望があれば、多少は心が前向きになるものだ。
 結果がどうなるにしろ、さすがに放っておけない。こんな状態の人を。
 それにちょっと考えていることもある。
 ああ、商売のことじゃない。魔法の研究のこと。
 僕の目的とも重なる部分もあるかもしれない。
 親切心と打算と妥協から、僕はグラストさんの力になると約束する。

「いいか、グラスト。あくまでシオンは手伝いだ。
 それにこれはおまえが勝手にしたことに対して、シオンが手を貸すだけ。
 わかっていると思うが、もし結果が思い通りでなかったとしても、シオンを責めるなよ」
「ああ、わかってるさ。当然だ。引き受けてくれただけでもありがたいと思ってんだ。
 悪いなシオン。面倒事を背負わせちまってよ。
 おまえなら、って考えちまって……なんせおまえは」
「グラスト!」

 グラストさんが何か言おうとした時、父さんが突然、大声を張り上げた。
 居間の空気が張り詰める。
 何が起こったのかわからず、僕と姉さんはただただ言葉を失っていた。

「い、いや、すまん、なんでもねぇ。忘れてくれ」

 今、グラストさんは何を言おうとしたんだろうか。
 僕が? 僕が何なんだ?
 その疑問を口にする寸前で、僕は飲み込んだ。
 父さんの横顔が、今まで見たことがないほどに険しかったからだ。
 だからに何も言えなかった。
 と、パンという乾いた音が鼓膜に届く。

「ささっ、話はまとまったみたいだし、昼食にしましょうねぇ。
 今日は海鮮シチューですよぉ」

 母さんが手をならし、間延びしたいつもの声を聞かせてくれた。
 それだけで空気が弛緩する。
 母さんがとことこと台所へ向かっていく。
 今さらながらに気づいたけど、美味しそうなニオイが漂っていた。
 料理をしている最中だったようだ。
 不穏な雰囲気に気圧されて、そんなことにも気づいていなかったらしい。
 父さんとグラストさんは少しだけ気まずそうにしながらも、姿勢を正した。

「ではまずは昼食にしよう。シオン、その後はどうすればいい?
 考えがあるのならば、聞かせてくれるか?」

 厳粛ながらも優しい声音が聞こえた。
 いつもの父さんだ。
 隣のグラストさんはまだ居心地が悪そうにしているけど。
 時間が解決してくれるだろう。
 何の話だったのか気にはなるけど、聞かない方がよさそうだ。
 僕は強い疑念と好奇心に蓋をして、いつも通りの顔を見せた。

「まずはイストリアに行って、現状を把握したいかな。
 その後のことは、その時に言うよ」

 正直に言うと、あまり考えはない。
 けれど少しずつ、ぼんやりと目的は見えつつあった。
 父さんは鷹揚に頷くと、小さく笑みを見せた。

「わかった」

 と短く言うと、それからは普通の会話を始めた。
 食事をし、談笑をすると次第にグラストさんも元気を取り戻していく。
 お腹を満たして、休憩し、家を出たのはそれから一時間後のことだった。

 目次 <<第25話 第27話>>

【第25話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 朝。中庭。雷鉱石前。
 断続的に電流を走らせている鉱石の前に、僕は立っている。
 僕の横には姉さんが同じように佇んでいる。
 今日は父さんがいない。
 今までは父さんがいない時は実験はするな、と言われていたんだけど。
 姉さんがいる状態で、簡単な実験ならばしていいと言われた。
 それと常に近くには水を汲んだバケツなりを用意しておけとも。
 実験イコール水が必要みたいな図式が父さんの中でできてしまったらしい。

「あ、あのね、姉さん」
「んーーー? なあに?」

 僕はどうしたものかと考えながら隣を一瞥した。
 近い。
 腕を組み、僕から離れようとしない。
 頬をすりすりと腕にこすり付けてくる。
 猫みたいで可愛いが、姉と弟というよりは恋人のようだ。
 嫌じゃないけど、あんまりべたべたするとまた父さんに怒られる。
 それに何というか、このままの距離感は今後を考えるとまずいような気もする。
 子供の内はいいけど……うーん。
 とりあえずそれは置いておいて。
 今は、近くにいられると困る。

「ごめん、少し離れて欲しいんだけど」
「どして?」
「今から、ほら、魔法の実験するからさ。近いと危ないし、ね?」
「……あたし、邪魔なの?」

 悲しそうに目を伏せてしまった。
 なんだこれ。
 傍から見ればイチャイチャしてるようにしか見えないような気がする。
 日本にいた時は、こういう恋人達を見かけたら、内心で呪詛を吐いていたものだ。
 まさか自分がその立場になるとは。
 姉弟だけど。

「邪魔じゃないよ! でも、ほら、離れてくれた方が、魔法の研究がしやすいし」

 唇をとがらせて、姉さんは僕から離れる。
 名残惜しそうに僕の右腕を見ていた。
 そんなに腕が好きなのかな。

「むぅ、わかったわよ」

 姉さんはぷっくりと頬を膨らませつつ、不満そうにしながらも、僕から距離をとった。
 庭の端っこで座り、膝を抱えている。
 姉さんはわがままな部分があるけど、説明すれば理解してくれる。
 僕は小さく嘆息して、口角をあげた。
 さて、今日の研究を始めよう。
 まず、今日に至るまで、僕は幾つかの鍛錬と実験を続けていた。
 それは魔力の形状を変化させるというもの。
 体外放出した魔力の形は今までは、真円だった。 
 それは恐らく、何も命令せずに放出した場合、魔力はその形に落ち着くからだと、今は暫定的に結論を出している。
 だから、形状を変えるという発想に至るまで時間がかかってしまったわけだけど。
 それはそれとして。
 僕は魔力の形状を変えることに成功している。
 意識すれば比較的簡単だった。
 魔力の形状変化において、幾つかわかったことがあった。

 一つ。体外放出した時点の魔力の質量以上に魔力を増加させることが可能。
 何も考えずに体外放出した場合、直径二十センチほどの真円の魔力が生まれる。
 粘土のように質量を増減させず、形を変えるというわけではなく、魔力そのものを薄く伸ばすことも可能だ。
 体外放出した魔力量と体積を60としよう。
 それは固定ではなく、反比例する。
 つまり体積を増やした場合、魔力量は減少する。
 体積が80ならば、魔力量は40という風に前後するというわけだ。
 ただしこれは、総合値は固定、というわけではない。
 この例では総合数値は120で固定だが、実際はかなり違う、という意味だ。
 割合の厳密な計算をするつもりは、今のところはないけれど、間違いない。
 まあ、それは当然なんだけど。体外放出した魔力のエネルギーは変動しないわけだし。
 エネルギーは消費すれば減る。
 そして存在するだけでも徐々に減少していくものだから。
 この事実がわかった時点で、僕の中で幾つかの疑問点が浮かんだ。
 どこまで膨張させることができ、どこまで縮小できるのか。
 前者は、おおよそ、直径五メートルの真円。
 薄く延ばし、水たまりのような形にすれば、十メートルくらいまで可能だ。
 ただ魔力が薄すぎると魔法に昇華できない。
 着火しないし、電気も流さない。
 ある程度の魔力量が必要になるということだ。

 ちなみに、五メートルほどであれば電気はほんの少しだけ通す。電流はほぼ見えない。
 三メートルなら一瞬だけ光り、電流はほんの一瞬だけ見える。
 一メートルなら眩く光り、同時に明確に電気が目視できる。

 魔力量によって反応は違い、明らかに威力にも違いがあった。
 五メートル時点で電気を通してもあまり意味はないだろう。
 ちょっとビリってするくらいだと思う。
 フレアに関しては、体外放出した時点くらいの魔力でなければ着火しなかった。
 薄く伸ばしても火は着かず、意味はなかったわけだ。
 さて、では魔力を凝縮した場合はどうだろうか。
 電気の方は小さく光るだけで終わった。
 多分、体積量が少なすぎたのだろう。
 凝縮した分、威力はあるかもしれないが、今のところは使い物にはならない。

 フレアはどうか。
 こちらは少し予想外の反応を見せた。
 普通の火ではなく、バーナーのような火が生まれた。
 ガスに火がついたような反応だ。
 今までのフレアは鬼火、つまり普通の火の形だったが、濃密な魔力に火を着けると、火力という観点でみると、明らかに向上している。
 試しに、木の板に向かって双方を放ってみた。
 今までのフレアは普通に火が燃え移るだけ。
 その上、触れてから燃え移るまで時間がかかる。
 後者のフレア、暫定的にガスフレアとしておこう。
 ガスフレアを使用した場合、木の板の表面は一瞬にして焦げ、着火した。
 火の広がり具合は、フレアと大差はなかったが、板の表面には黒い跡を残していた。
 ガスフレアの方が確実に威力は上だ。
 ただしフレアの方が長持ちする。
 フレアの持続時間は五秒。
 ガスフレアの持続時間は三秒くらいだ。
 持続時間が違うということは、必然的に体外放出し、対象に向かって放った場合、移動距離はフレアの方が長くなる。
 フレアは十メートル程度で、ガスフレアは五メートルほどだ。
 これが一つ目の気づき。

 そして二つ目だ。
 魔力の形状変化は大雑把だということ。
 三角形、四角形、五角形程度ならばできるが、それ以上になると、ぼんやりと丸くなったりする。
 精密な形を作るのは難しかった。
 練習不足なのかもしれないので、この部分は要検証といった感じだ。
 そして明確な形以外、例えば糸の束のような形とか、丸と四角の合体したような形とか、つまり形式ばった形以外の物に関して。
 先に答えを言うと、それも可能だ。
 だが非常に難しく、思った通りの形にするのはより難しい。
 魔力の形状変化は魔力の体外放出や、おおまかな命令、つまり放出し、対象へ向かうといったようなものと比べると、非常に繊細だ。
 つまり明確なイメージが必要ということ。
 人間の思考というのは複雑で不明瞭で、色々なものが混在している。
 イメージしても、雑念が混じってしまう。
 どれほど精神を落ち着かせても、よほどの精神鍛錬を積み重ねた人でない限りは、完全なイメージをすることはできないと思う。
 これも継続して鍛錬する必要があるだろう。
 今のところは、明確なイメージが必要な魔力形状変化はないからいいけれど。
 今後を考えれば、魔力を操作する訓練をしておいて損はないと思う。

 そして三つ目。
 魔力を体外放出した後に、形状変化をするという方法もできるということ。
 基本的に、僕は魔力放出の際、手のひらから魔力を生み出す。
 魔力放出時に、接触面が大きく、イメージがしやすいためだ。
 そして接触面が大きい形状の場合は問題なのだが、例えば、細長い円柱型の魔力を生み出す場合、僕の手のひらから真っ直ぐ魔力が伸びる、という方法で魔力が生まれる。
 真円や四角形のような、手のひらから生み出すことができるような形状以外は、このような方式で魔力が放出されるのだ。
 つまり西遊記孫悟空が持っている、如意棒が伸びるような感じだ。
 一メートル程度の長さならば瞬時に放出できるけど、それ以上になると一瞬では造り出せない。
 当然だけど、伸ばせば伸ばすほど、魔力量は少なくなり、体積は増える。
 もちろん、手のひらに直接魔力が触れていると、電気や火が身体に触れるため、手のひらから放出するという命令も加えている。
 さて、現時点でわかっている魔力の形状変化に関しては以上だ。
 これを踏まえて、僕は雷鉱石の前に立っている。
 僕は右手から魔力を生み出す。
 手のひらから僅かに離れた場所から、円柱が伸びるイメージ。
 それが雷鉱石に触れる。
 と、電流が走る。
 手前に。
 僕の目の前まで赤い電気が走ったのだ。
 バチッという恐ろしい音を慣らしつつ茨は流れ、そして消えた。
 眩いばかりの光が中庭を照らし、そして消えた。
 僕は反射的に手のひらを後ろに引いてしまった。
 魔力は手から放していたので、手を伸ばしていても怪我はしなかっただろうけど。
 心臓が一瞬にしてうるさくなる。

「だ、大丈夫、シオン!?」

 姉さんが慌てて、僕の近くに駆け寄り、手を何度も確認していた。
 怪我はない。ただ怖かっただけだ。
 ちょっと予想はしていたけど、これはやはりそうなるか。

「大丈夫。なんともないよ」
「そ、そう? だったらいいけど……でも、さっきの、どういうこと?
 電気が手前に来ていたけど。あたしはシオンの正面に電気が向かうと思ったんだけど」
「それなんだけど、フレアの時も思ったけど、魔力を消費して、魔法は生まれているんだ。
 だから、魔力がある方に流れてくるのは、おかしなことじゃないんだよ。
 魔力が雷鉱石に触れた時点で、僕の方向に流れてくるのは当然の帰結だと思う」

 姉さんはよくわからないと首を傾げていた。
 ただ説明するのも、なかなか難しいような気がする。
 この世界には、電気という概念は浸透していない。
 雷はあるから、何となくの説明はできるけど。
 さて、先ほどの現象の検証に映ろう。
 当たり前の話。
 僕は離れた場所から棒のような魔力を生み出し、先端を雷鉱石に触れさせた。
 すると電気は触れた部分から魔力を伝っていく。
 つまり僕の手元に向かうわけだ。
 まあ、これは当然、予想はできた。
 思ったよりも怖かっただけだ。
 ただこの場合、フレアと違って、電気の場合は触れた時点で放電してしまい、対象に向かって放つことが困難だ。
 雷鉱石に触れた時点で、対象へ向かう魔力の棒が十分に伸びきっている必要がある。
 つまり、僕、雷鉱石、対象、という立ち位置になり、僕は対象まで魔力を伸ばした状態で、魔力を雷鉱石に触れさせなければならないということ。
 魔力の棒の中心部分に雷鉱石を接触させ、僕と対象に向かい電気を流すような感じだ。
 かなり非効率だし、そのためにはかなりの命令が必要で、魔力量の消費が激しい。
 体外放出、魔力を伸ばし、そのままで固定し、中心部分を雷鉱石に接触させる、ということだ。
 これだけでかなり無駄な命令が多い。
 真っ直ぐ魔力を伸ばし、任意のタイミングで電気を流すことができればいいんだけど。
 ただそれは無理だ。雷鉱石は断続的に放電しているし、手に持つのは不可能。
 マイカ、じゃなくてペラ鉱石のような絶縁体があれば別だろうけど。

 うーん、今のままだとフレアみたいに手軽には使えそうにないかな。
 僕は心配する姉さんを宥めて、実験に戻った。
 今度は放出した魔力を比較的、薄めて伸ばした状態で雷鉱石に触れさせる。
 これは先ほどの言ったように、直径三メートルほどの厚みのない円であれば一瞬だけ光り、電気が一瞬だけ走る。
 触れる時までに形状を作り上げておかなければならないけど。
 雷魔法は使い方が中々に癖がある。
 触れた時点で、電気は魔力を喰らうために暴れ回る。
 火もそうだけど、火は持続力がある。
 雷は一瞬にして魔力を消費してしまうため猶予があまりないのだ。
 火魔法のフレアとは違い、雷魔法には問題が山積みだ。
 どうしたものか。
 色々と活用できそうな可能性は感じているんだけどな。
 しばらく実験をしては脳内で検証、それを繰り返しているとやがて昼になっていた。

「シオン、そろそろ戻ろ?」
「……うん」

 姉さんは僕を気遣ってくれていた。
 父さんがいないため、姉さんは剣術の鍛錬をせず、僕の実験に付き合ってくれたのに。
 すでに色々としてくれているのに、これ以上、何か負担をかけるわけにはいかない。
 できるだけ笑顔を浮かべて、姉さんと共に家へ戻った。
 僕は、煮詰まっている現状に気づき始めていた。
 何かが足りない。
 このままだと多分、雷魔法はまともに使えない気がした。
 まだ形にもなっていない。
 そしてその打開策も僕には浮かばなかった。

 目次 <<第24話 第26話>>

【第24話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 目を覚ますと、身体が怠かった。
 ここ最近、魔法の研究ばかりしているためか、寝覚めが悪い。
 ちょっと根を詰めすぎかもしれない。
 色々とわかってきたこともあるし、少しずつ進んでいるから、止められないんだよね。
 面白いゲームの止め時がわからないみたいな。
 とにかく、少しは自重した方がいいかもしれないな。
 まあ今日もするけど。
 僕はベッドから降りて、一階のリビングに向かった。
 まだ朝だけど早朝じゃない。
 多分七時くらいかな。
 居間には母さんだけがいた。
 食卓にはいくつかの料理が並んでいたけれど、二つだけ。
 僕と母さんの分らしい。

「おはよう、母さん。父さんと姉さんは?」
「あら、おはよう、シオンちゃん。お父様はお仕事でサノストリアに行ったわよぉ。
 マリーちゃんは外で剣のお稽古ね」
「そっか……姉さん、また稽古してるんだ」

 僕はふと窓から中庭を覗く。
 剣を振り続けている姉を見ると、何とも言えない気持ちになった。
 彼女の表情は真剣そのもので、近寄りがたい雰囲気が遠目でも感じられた。
 朝から晩近くまで、ずっと稽古をしている。
 それが毎日続いているのだ。
 しばらくすれば収まるだろうと思っていたけれど、その気配はなかった。
 僕も人のことを言えないけれど、姉さんは少し頑張りすぎだと思う。

「……さっ、食べましょう」
「……うん」

 母さんは何も言わず、少し寂しそうにしながら言った。
 父さんも母さんも、それとなく姉さんに休むように言ったりはしている。
 けれど姉さんは決まって、大丈夫、と言う。
 僕も声をかけることはあるけれど、いつも通りの姉さんだった。
 ただ稽古に対して、強い執着心を抱いている以外は。
 何となく心中は察している。
 母さん達が、あの日のことは気にするなと言っている状況に遭遇したこともある。
 けれど姉さんは変わらない。
 悪いことをしているわけではないし、誰かを傷つけているわけでもない。
 父さんと母さんは怒ることもできず、困っているようだった。
 彼女は努力しているだけだ。
 懸命に強くなろうとしている。
 それを諌めることは、難しいのかもしれない。
 今のところ、大きな問題には発展していない分、余計に。 
 僕の魔法の研究に関しては、かなり色々言ってくるけど、基本的には自由にしていい。
 危険な場合は父さんが同行することになっているくらいだ。
 魔法なんてものでなければ、そこまではしなかっただろう。
 過干渉と放任の塩梅は難しい。 
 僕と母さんは何も言わず、食事に勤しんだ。
 ふと母さんを見ると、何か迷っている様子だった。
 僕をちらちらと見て、俯いて食事を続け、またちらちらと見ている。
 母さんには珍しい反応だった。
 普段はにこにこしながら温かく見守っていることが多い。
 しかし今日の母さんは明らかに様子が違った。

「……もしかして姉さんのこと?」

 僕は不意に思いついた言葉を口にした。
 それは図星だったらしく、母さんは困ったように僕を見ていたが、やがて答えてくれた。

「どうしてそう思ったのかしら?」
「母さんが話そうか迷っているくらいだから、僕に頼みごとか何かしようとしているかなって。
 最近の出来事と僕にできることを考えると姉さんのことなんじゃないかと思ったんだ。
 母さんが僕に頼るなら、姉さんのことしかないから」
 母さんは驚いたように目を見開いていたけど、やがて諦めたようにため息を漏らした。
「シオンちゃんは本当に頭がいいわね……うん、その通りよ。
 マリーちゃんのこと、話そうと思ったの。最近のマリーちゃん、様子がおかしいでしょ?」
「うん。あの……ゴブリンことがあってから、だよね?」
「ええ……あの時のことを気にしているんでしょうけど、少し自分を追いつめすぎていると思うの。
 わたし達からも言っているけれど、聞く耳を持たないのよ。
 シオンちゃんから言った方が聞いてくれるかもしれないと思って……」

 姉さんは頑固だ。
 父さんもそうだから、血なんだろう。
 母さんから言われても、庇った相手の言葉だし、素直に受け入れたくはないだろう。
 罪悪感があるし、気を遣われていると思うからだ。
 父さんの言葉を受けても、父さんは強く、たくましく、そして大人だ。
 余計に意固地になり、早く強くならなくてはならないと思うかもしれない。
 でも僕は姉さんの弟だし、同じ子供だ。
 だから僕から話せば、少しは話を聞くかもしれない、と思ったのだろう。
 でも、どうだろう。
 僕も少しは話をしてる。
 日常会話のことじゃない。剣術の稽古を少しは休んだらどうか、ということだ。
 でも姉さんは話半分に聞いているだけ。
 まったく言うことを聞いてくれないし、むしろ逆効果のような気がする。
 なんだかよくわからないけど剣術の話をすると、不機嫌になっているような感じがするのだ。
 だからあまり話せない。
 でも、そろそろ踏み込むべきなのかもしれない。

「あ、ご、ごめんなさいね。今のは、気にしなくていいわ」

 僕が押し黙っていたからか、母さんは慌てて訂正した。

「ううん、話すよ。僕も話したいと思っていたし、それに……このままだとあんまりよくないし」

 身体を壊す、とはよく言うが、そこまで働いたり努力する人間は多くはない。
 それはそこから逃れられない何かがあるのだ。
 良くも悪くも自分を追いつめてしまう性格の人に起こり得ることだと思う。
 僕は自分で言うのもなんだけど、飄々としている方だし、最終的にはまあいいかと思える。
 けれど姉さんは真面目だからなぁ。
 その気持ちもわかる。
 僕が姉さんの立場だったら、多分、同じように思うだろう。
 僕の返答を受けて、母さんは複雑そうな顔をしたままだった。 
 七歳の子供に頼む内容にしては少々大人びている。

「ありがとね。シオンちゃんがしっかりしているからって頼るのはどうかとも思うんだけれど」
「もっと頼ってくれていいよ。僕は子供だけど、子供だからできることもあるはずだから」
「シオンちゃん……」

 母さんは何かを言おうとしたけれど、口をつぐんだ。
 物わかりが良すぎただろうか。
 うーん、今までの行動を鑑みると、もう遅い気もするけれど。
 まあ、いいか。
 演技する必要もない。
 僕は僕で、必要以上に取り入る必要はないだろう。
 僕はいつも通りの食事を終えると、お皿を水につけた。
 そして椅子に座ったままの母さんに一声かけると、中庭に出た。

「ふっ! ふっ! ふっ!」

 姉さんが剣を振っていた。
 縦、斜め、突き。
 踏み込みながら、或いはその場で、その型を続けていた。
 真剣で、僕の存在に気づいてもいない。
 彼女は九歳だ。
 そんな子供が一心不乱に剣を振るっている。
 それが強く僕の胸を打ち、締め付けた。
 姉さんは真っ直ぐすぎる。
 周りが心配していても、それに気づいていても止まれないんだろう。
 僕は彼女の近くに移動して、じっと稽古を眺めた。 
 僕が魔法の研究をしていた時、姉さんは今の僕と同じように、見守ってくれていた。
 今度は僕がそうしようと思った。
 それから二時間程度、姉さんは素振りを続け、今度は走り始めた。
 昼時までかなりの速度で走り続け、汗だくになり、息を弾ませた。
 そしてようやく足を止めた。

「はあはあはあっ!」

 鬼気迫っていると言っていい。
 彼女の醸し出す空気は子供のそれではない。
 自分を追い込む人間のそれだった。
 僕はそんな姉さんの姿を見て、何とも言えない気持ちになった。
 強くなるには鍛錬が必要だ。
 そして厳しい訓練であればあるほど、成長は早いし、より高みへ行けるだろう。
 でも、今の姉さんは痛々しかった。
 見ていられない。
 でも、僕は目を背けない。
 僕はいつでも姉さんの味方で、姉さんの力になりたいと思っているからだ。
 けれど、今の姉さんの味方になることは、姉さんのためにはならないだろう。
 姉さんのことを思うなら、止めるべきだと思った。
 そう思って近づく。

「姉さ――」

 話しかけようとした時、姉さんが振り向いた。
 その目は僕を見据え、射抜いた。
 あまりに澄んだ瞳に、僕は言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまった。

「……何?」

 姉さんは不機嫌さを隠そうともしない。
 いつもはもっと優しい。
 でも剣術の稽古中は、いや剣術のことを話すとこんな風になってしまう。
 一度、稽古を止めた方がいいと話したことがあった。
 あの日以来、僕と姉さんの間には微妙な隔たりができている。
 険悪ではない。話すこともあるし、仲は良い。
 でも、今までみたいに仲睦まじい感じじゃない。
 何か引っかかりがあり、距離を置いている気がした。
 それが嫌だった。
 僕は姉さんのことが好きで、一緒にいたいし、味方でいたかった。
 そして姉さんのことが大切だからこそ、剣術の稽古を休んでほしいと思ったんだ。
 だから……だから?
 だから僕は姉さんに稽古を止めた方がいい、なんて言ったのか。
 僕が?
 姉さんの味方であるはずの僕が『姉さんの考えを否定した』のか。

「……姉さん」
「だから、何よ?」
「ごめん」

 僕はすぐに謝った。
 頭を垂れて、姉さんに許しを請う。

「……何について謝ってるのよ」
「僕は、姉さんの考えを否定してしまった。だからごめん。
 姉さんの気持ちも考えず偉そうに助言なんかしたつもりになって。
 ……僕は姉さんの味方でいなかった」

 今まで、姉さんは僕の味方でいてくれた。
 魔法なんて怪しげなものに執心していることを止めもせず、助けてくれて、味方でいてくれたのに、僕は……姉さんの行動や考えを否定した。
 ずっと味方でいてくれた彼女のことを諌めた。
 大人ぶって、上から目線で、彼女のことを勝手に判断して。
 僕は何様だ。
 やりすぎは身体に毒だ。
 それはわかっている。
 時として周りが止めることは大事だ。
 でも僕がすることはそんなことじゃなかった。
 僕は大人じゃない。親でもない。
 姉さんの弟で絶対的な味方だ。
 例え、姉さんが間違っていたとしても、安全圏から高説を垂れるなんてことをしてはいけない。
 僕は姉さんと共に歩くべきだったんだ。
 辛い時は共に辛い目にあう。
 悲しい時はずっと傍にいる。
 周りから否定される時は一緒に否定され、一緒に行動する。
 姉さんはそうしてくれた。
 魔法なんて、存在するかもわからないのに、否定せず、受け入れて、その上で僕のことを考えて行動してくれた。
 その彼女に、僕はなんてことを言ったのか。
 僕の言葉は今までの彼女の優しさをすべて否定してしまっていた。
 そんなことに気づかず、僕は何をしていたんだ。
 自分の愚かさに苛立ちを覚えた。
 見放されてもしょうがない。
 そう思った。
 でも。

「違うわ。そんなこと気にしてない」

 姉さんの言葉を受けて、僕は即座に顔を上げた。

「でも、いつも姉さんは僕の味方でいてくれたのに、僕は……」
「確かに、そりゃちょっと思ったわよ。なんで味方になってくれないのって。
 でも、シオンが言っていることは間違いじゃないとも思ったし、それはいいの。いいのよ」

 よくない。よくないけれど、姉さんが気にしているのはそこじゃないらしい。
 いや気にしているけれど、飲み込んでくれたということか。
 やはり気にしてはいたんだ。
 自省はしないといけない。

「じゃあ、その、どうして」

 なんて言えばいいのかわからなかった。
 怒っているのか、という言葉は妥当ではないような気がした。
 別に、姉さんは常に怒っているわけでもないし、僕との距離ととっているわけでもない。
 何となく、近づきがたくなっているだけで、それは態度が違っているということではない。
 普段はまったく今まで通りだったのだから。
 僕の戸惑いを受けて、姉さんは嘆息した。

「シオンが悪いんじゃないわ。あたしが勝手に……嫉妬してるだけ」
「嫉妬?」
「あたしはシオンのお姉ちゃんだから、ずっと守ってあげなきゃって思ってた。
 だから、ずっとシオンの味方だったし、ずっと剣の訓練をしてた。
 自信、少しはあったのよ。魔物相手でも戦えるはずって。何かあったら守るんだって。
 でもできなかった。怖かった。足が震えて、力が入らなくて何もできなかった。
 それで……お母様があんなことになって……あ、あたしは……」

 姉さんは自分を抱きしめた。
 トラウマになっても仕方がない。
 怖くて、何もしたくなくなってもおかしくない。
 普段通りに振る舞える姉さんは強い人だと思う。
 けれど、そんな彼女でもあの恐怖を忘れることはできないだろう。
 あの醜悪な存在と対面し、平気でいられる人間はいない。

「死ぬと思った。でもお母様が助けてくれて、何が何だがわからなくなって。
 あたしは、ただ叫んでただけ。シオンが助けてくれなかったらみんな死んでた。
 生きてることが嬉しかったけれど、お母様のことを考えると素直に喜べなかった。
 何より……何もできなかった自分に腹が立った。
 そして、守る存在だと思っていたシオンに、守られたことが……許せなかった」
「僕が、嫌いになったの……?」

 姉さんは慌てて首を横に振って、僕に近づいてきた。

「そ、そんなことは絶対にないわ! シオンはあたしの弟だもん!
 今までも、これからも大好きなまま!
 許せなかったのは自分自身。今もシオンの強さに嫉妬してる、あたし自身の弱さよ。
 大好きなのに、シオンに嫉妬してる自分が嫌で、強くなろうって。
 そしたらきっと自信が持てるし、もっと堂々とできるって」
 近くで見ると彼女の手は赤く染まっている。
 どれほどの時間、剣を握っていたのか。
 激しく痛むだろうに、それを表に出さない。

「だから、稽古を続けてたんだね……」
「ええ。でもね、わかってるのよ。こんな風にやっても身体を壊すし、みんなに心配をかけるって。
 けれど、じっとしていると落ち着かなくて、あの日のことを思い出して。
 シオンの顔を見るとどうしても嫉妬してしまって。その思いを振り切りたくて」
「姉さん……」

 これが子供なのかと。
 いや、子供も大人と同じように悩み、そして真剣に生きているのだ。
 それを僕は忘れていた。
 僕が子供の頃、こんな風に真剣に生きてはいなかった。
 けれどそれでも悩みはあったし、辛い思いもした。
 マリーはまだ九歳だ。
 それなのに色々な思いを積み重ね、必死に現実と戦おうとしてる。
 その勇敢さと清廉さに僕は胸を打たれた。
 だからか、僕は自然と姉さんを抱きしめていた。
 溢れる思いのままに、僕は力を込めて、姉さんの身体を引き寄せた。

「シ、シオン……?」
「気づけなくてごめん。
 姉さんが悩んでいたことはわかっていたのに、姉さんの思いはわからなかった。
 ごめん、ごめんね。姉さん。僕は姉さんの味方のはずなのに、味方で居続けられなくてごめん」

 身長はまだ姉さんの方が高い。 
 しかし、以前ほど、身長差はなくなっている。
 僕は姉さんの胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめた。
 すると姉さんも僕の背中に手を回してきた。
 縋るように力を込めてきた。同時に思いが伝わってきた気がした。

「……ご、ごめんね、シオン。嫌な態度、とっちゃったわね。ごめんなさい……」
「いいんだ。何かあったら僕にぶつけてくれていいんだ。僕は全部受け止めるから」

 姉さんは何も言わず、ただ僕を抱きしめた。
 子供も大人も関係ない。
 誰もが必死で生きている。
 それが転生して気づいた一つのことだった。
 姉さんの顔は見えない。
 でも時折聞こえる嗚咽が、彼女の感情を表していた。
 僕は無言のままだった。
 姉さんも無言のままだった。
 ただ互いに体温を求めるように、抱きしめあった。
 縋るように。
 互いの感情を宥めあうように。
 時間を過ごした。

   ●○●○

 姉さんは無茶な稽古をしなくなった。
 きっちりと休憩をとり、夕方前には稽古を終えるようになった。
 今までは早朝から日が暮れて、夕飯になるまでずっと稽古していたから、かなりの変化があったと言えるだろう。
 母さんと父さんは安堵したようだった。
 姉さんとの微妙な距離感はなくなり、今まで通りの関係に戻った。
 いや、多分違う。
 というかかなり違う。

「ほら、シオン。あーん」

 食卓である。
 夕食である。
 テーブルにつき、食事時である。
 僕の隣には姉さんが座り、満面の笑顔でスプーンを僕に向けている。
 その上にはシチューが乗っていた。
 正面に座っている父さんと母さんの反応を見てみよう。
 母さんはニコニコしている。
 しかし食事の手は止まっているし、僕達を凝視している。
 父さんと言えば、あんぐりと口を開けたまま硬直していた。
 それはそうだろう。
 今まで仲が良かったとはいえ、一定の距離は保っていた。
 普通の姉と弟だったはずだ。
 それが何を間違えたのか、料理を食べさせる姉と、食べる弟というシチュエーションが生まれてしまっているのだ。
 親からすれば、え? なに? なんなのこれ、となるだろう。
 実際なってるからね。
 僕の心情は、複雑だ。
 なんというか、言葉に言い表せない感じで、ああ、もう! よくわからん!

「……あーん! シオン、あーんしてよぉ……」

 笑顔だった姉さんが、徐々に泣きそうな顔になっていく。
 まずい。これはかなりまずい。
 食べなければ姉さんは泣くし不機嫌になる。
 こういうところはかなり子供っぽいし、頑固だし、わがままだからだ。
 しかし両親の前で、あーんをするなんて苦行ありますか?
 なんなのこれ。恥ずかしすぎて死にそうなんだけど。
 でも姉さんを放置するのはもっとできない。
 僕は顔を熱くしながらも、両親を見ずにスプーンを咥えた。
 シチューで喉を鳴らすと、すぐに俯く。

「おいし? ねえ、シオン、おいしい?」
「う、うん。おいしいよ」
「ほんと!? えへへ、今日の料理はね、あたしも手伝ったんだぁ」
「う、うん、知ってる」

 元々、姉さんは器用で色々とできる人だ。
 料理も時々は手伝っているし、家事全般ができる。
 今日はかなり真面目に料理を作っていたが、なるほど、こういうことだったのか。
 いや、なんでこういうことになってんの?
 あれか。あれなのか。
 昨日のあれのせいか。
 でもあれは姉と弟の範疇に収まるやりとりだったんじゃないだろうか。
 しかし、それ以前に僕は姉さんに告白しているわけで。 
 いや、そもそもそういう問題じゃないような。
 あれ、もう頭がこんがらがってよくわからない。
 そもそも僕も自分の感情がよくわかっていない。
 考えがまとまらず、僕の頭は知恵熱を発し始めたようだった。
 そういうことから。
 僕は思考を停止した。

「はい、シオン。あーん」
「あーん!」

 僕は感情を捨て去り、食事を続けた。
 うん、おいしいね!
 もうどうでもいいね!
 姉のあーんとかご褒美だと思おうね!
 両親達の反応を見ずに、僕達はひたすらにいわゆるイチャイチャし続けた。
 考えるな。
 考えれば憤死する。
 だから考えてはいけない。
 そんな風に自分を律し、食事に勤しんだ。
 ちなみにそれから一週間はそれが続き、ついに父さんから「いい加減にやめなさい」と説教を受けるはめになり、ようやく終わった。
 嬉しいような、悲しいような複雑な気持ちになった。

 目次 <<第23話 第25話>>

【第23話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 雷鉱石を入手して一ヶ月が経過していた。
 最近はかなり気温が下がり、乾燥している。
 雪が降る日もあるくらいに、完全な冬季に突入したみたい。
 さて、この一ヶ月の出来事を説明しようと思う。
 まず、毎年のことだけど、冬場は基本的に食料の保管と燃料の確保が重要になる。
 日本のように、どこにでも生活用品や食料がある環境ではないからだ。
 僕や姉さんもすでに労働力として数えられているため、村に手伝いに行ったり、買い出しに同行したりする日が増えた。
 ということで、魔法の研究に割く時間はあまりとれなかった。
 それでも時間をできるだけ確保して、多少は魔法を研究することはできた。
 雷鉱石を手に入れた当日の研究結果を改めて簡単に説明しよう。
 雷鉱石に対して魔力を与えた場合、電流の色が赤くなり、一瞬だけ光量が増した、という結果が出た。
 なぜこのような反応が出たのか、という点に関しては一先ずおいておくことにする。
 何度も試したけど、魔力を与えると同じ現象が起きた。
 火魔法との大きな違いは一瞬で魔力が消失するということだ。
 火魔法の場合は、火に魔力を接触させると青く変化し、魔力に火が移る。
 そして燃え続けた状態で移動し、放出魔力がなくなると消える、という感じだ。
 でも雷魔法に関しては、一瞬だけしか変化がない。

 これはどういうことか。
 僕は、魔力は可燃性物質ではないが、それに類する性質のある何かしらのエネルギーだと思っていた。
 そして魔力は何かしらの現象を継続させる性質を持っているのではないかとも思っていた。
 燃えるには点火源と酸素と可燃物質が必要で、可燃物質の役割を魔力が担っていたと思ったからだ。
 でも、雷魔法の実験でそれは違うとわかった。
 火と雷の違いを考える。
 共にプラズマ。
 でも、特徴は違う。
 火は三要素があれば、燃える。
 何かしら燃えるものがあれば燃え続けるわけだ。
 つまり自然に継続する現象。
 雷、この場合は電流だけど、それはどうだろう。
 電流は電荷の移動だ。
 放電されれば、それで終わりで、また電荷の移動をする必要があり、それはいわばタメが必要な現象。
 雷を見ればわかるが、落雷は継続的に地上に流れ続けない。
 電気を流し続ける自然現象は存在しない、と思う。
 雷鉱石もあくまで断続的に電流を発生している。
 つまり、火と違って断続的な自然現象である、と言えるだろう。
 もちろんアーク放電のように近距離で発生する高電圧の放電のようなものであれば、継続的に現象は起こるけど。
 今回は、あくまで一時的な放電の話だ。
 二つの違いは、継続的か断続的か。
 そして自然現象として継続するか、しないかという違い。
 火は魔力を与えれば燃え続ける。
 雷は魔力を与えれば一時的に変化し、消える。
 つまり。
 こういうことだ。
 『魔力は現象自体を増幅し、その現象を独立して起こすことができる』ような物質であるということ。
 火魔法に関しては、すでに点火しており周囲に酸素もある。
 だから魔力を与えることで『疑似的に燃え続ける現象を起こし続けることができる』のではないだろうか。
 雷は発生源が鉱石であり、雷を発生させるには電荷の移動が必要で、魔力はその現象を手助けしない。
 だから『雷魔法は一時的な変化しかしない』のではないだろうか。
 この結果から導き出される、魔力の性質。
 魔力は現象を増幅させる。
 つまり火に触れれば魔力が燃えるのではなく、魔力自体が火になるということ。
 恐らくは色の変化も、魔力が現象に変化した現れなのだろう。
 そして火は継続し、電気は一瞬で放電されるというわけだ。
 電流に関して、光の量が増すのは、広義的な意味でのスパークをしている状態なんだと思う。
 つまり魔力内――この場合は放出魔力の形状が球の形をしているので、その内部において――一瞬にして魔力内に電流が流れ、電圧が増した、ということかも。
 これが魔力が現象を増幅させるという考えの理由だ。
 現時点で、魔力には二つの性質があるということ。

 『触れた現象を疑似的に模倣し、現象を自ら起こす』
 『触れた現象を模倣した後、その効果を増幅させる』

 後者がなければ、火は燃え続けることはない。
 魔力が可燃物質でないという裏付けにもなるはずだ。
 ただこれは暫定的な考えであって、結論ではない。
 まだまだ研究は必要だし、改良も、そして実用性を高めるための試行錯誤も必要だ。
 さて、ここまで判明した時点で、今に至っているわけだけど。
 問題は、電流をどうやって魔法に変換するか、だ。
 火は燃え続けるため、魔力を与えるだけで魔法に変換が可能だ。
 火打石で発火し、魔力を与えることで、鬼火のような形を造り出すわけだ。
 だけど雷鉱石に関しては、魔力を接触させた時点で、魔力は霧散する。
 一瞬で放電されるため、魔力によって増幅された電流は大気中に放電されるわけだ。
 電気は一瞬で流れていく。
 それを止めるのは難しい。
 ということで僕は頭を捻っていた。
 自室のベッドの上。最早、僕の定位置になっている場所だ。
 そこで僕はずっと唸っていた。

「うーん、どうしたらいいのかな……」

 放出した魔力を触れさせた時点で弾けるのならば、打つ手はないような気がする。
 ただ魔力による反応が生まれることを目的とするならばこれで目的は達成している。
 でも僕はもっと自由な魔法が使いたいし、以前のゴブリン襲撃以来、魔法での自衛も考慮し始めている。
 僕には剣術のような戦闘は向いていない。
 けれど僕が魔力の存在に気づかず、魔力の操作ができなければ、あの日、みんな殺されていた。
 今後そんなことがないとは限らない。
 だから自衛でき、みんなを助ける手段が欲しい。
 僕が戦うには魔法が必須だ。
 火魔法もそうだけど、雷魔法も実践に使える程度には昇華させたい。
 今のままだと薪に火をつけたり、相手に火傷を負わせるくらいしかできないし。
 相手に魔力があれば、先日の戦い方もできるかもしれない。
 でもあの現象もまだ不確かだし、相手が魔力を持っていない場合は効果がない。
 すぐに結果を出すつもりはないけれど、最終形は頭に描いているということだ。
 話を戻そう。

「雷魔法……雷魔法……雷……うーん……何か根本的に間違ってるような」

 何かが引っかかる。
 とてつもない間違いをしているような気がする。
 なんだろう。
 何がいけないのかな。
 僕はなんとなく集魔状態になり、手のひらから魔力を放出した。
 球体の発光した魔力が天井へ浮かび上がると徐々に消えていく。
 その様子を見て、僕はあんぐりと口を開けた。

「……トラウトと同じ現象に拘りすぎてた?」

 以前も同じように考えていた。
 トラウトの現象から魔力の存在に気付いたため、僕はトラウトの行う魔力関連の出来事に固執してしまっていた。
 でもそうじゃない。 
 そうだ。
 簡単なことだった。
 『魔力が球体である必要はない』なんてことに気づかないなんて。

「そうか! そうだよ! 放出魔力の形が球体である必要はないんだ!」

 トラウトのこともあったけど、何となく魔力のイメージが球体だった。
 色々な創作物で魔力とか気とかなんか不思議エネルギーの形が、なぜか円状が多いからかも。
 僕は試しに『右手に集まった魔力が四角形で放出される』という意思を抱いた。
 すでに何千回と行ってきた集魔状態からの放出だったためか、円滑に魔力は放出される。
 手のひらから現れた魔力は、四角形だった。

「うお! 本当に出た!?」

 その四角形の魔力は天井に向かうと消えた。
 その後も、何度も別の形を試してみた。
 すると思い通りの形の魔力が放出された。
 固定概念は足かせにしかならないことが証明された。 
 もっと柔軟に考えないといけないな。
 なるほど、僕は魔法を使うことに執着しすぎていたらしい。
 もっと魔力に関して知るべきだし、もっと試すべきだったんだ。
 形だけじゃない。
 今は、ただ放出させているだけだ。
 もっと他の命令を与えることで、複雑な動きをしたりもできるだろう。
 色々と試さないといけない。

「へへ……これから、これから」

 僕は頬を緩めて、魔力の放出を続ける。
 最初に比べて、一日に四十回近くまで魔力の発動が可能になっている。
 当然、一度の体内に魔力を巡らせる量は限界がある。
 総魔力量はもう少し増えそうだけど、魔力放出量はカンストかも。
 まあ、今のところ、放出魔力が足りないと思うことはないから問題ないけどね。
 さて、じゃあ、体外放出魔力への命令を色々と試してみよう。
 なんかプログラミングみたいだけど。 
 その内、魔力がハローワールドとか言うんじゃないだろうな。
 さすがに、それはないか。
 なんてことを考えながら、その日の僕は魔力へどんな命令ができるのか実験を繰り返した。
 夢中になり、魔力が枯渇してしまい、身体が動かなくなり、家族に呆れられました。
 なんだがちょっとずつ家族が慣れていってる気がして、怖い。

 目次 <<第22話 第24話>>

【第22話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 イストリアから少し離れた場所に採掘場はあった。
 採掘員達が鉱石を運搬しているが、それ以外にも普通に道を通る人がいた。
 鉱山だけど、別地域に行くために通る道でもあるらしい。
 そのため、旅人や商人の姿も散見した。
 採掘場には二区画存在し、一つは採掘員しか入れない独占区域で、もう一方は許可さえ取れば一般人でも入れる採掘区域らしい。
 多少のお金を払って入れば後は自由に採掘が可能だ。
 ただ一般開放されているだけあって、大抵は安い鉱物だけだし、採掘するにはそれなりの道具や労力が必要にある。
 そのため大抵は赤字らしい。
 僕達は雷鉱石が目的で、雷鉱石は岩盤内ではなく、普通に露出している。
 通りに面して存在していたりするので、近くに看板がある。
 そこには『雷鉱石注意』と書かれているだけだ。 
 岩場にはそこかしこに雷鉱石があった。
 グラストさんが言っていた通り、それは放電していた。
 青い電流をバチバチと生み出して、発光している。
 水に電気を流している状態を外から見ている感じ。
 触ると危険だし、近づけないことは間違いない。
 雷鉱石は大小あり、大きさに比例して、電流の強弱が変わっている。

「不用意に近づくなよ。火傷じゃすまねぇからな」

 グラストさんの忠告を聞き、僕は周りを観察した。
 僕の身体くらい雷鉱石は見るからに危険そうだ。
 多分、電流を大量に浴びたら死ぬ。
 でも手のひらサイズくらいの雷鉱石はそうでもなさそうだ。
 それでもかなりバチバチと電気を発しているけれど。

「それで、どうする? ペラ鉱石を使って触るのか?」
「ううん、この状態の鉱石で触っても、当然、電流は通らないからね。
 厚いから、絶縁体じゃなくても、電気は通らないはず。だからこうする」

 僕はマイカをむしろうとしたが、思ったよりも硬かった。
 僕の力だと剥がせないかも。

「貸してみな」

 グラストさんに渡すと、簡単に層を剥がした。
 何枚か剥がしてくれたので、僕はそれを重ねて、手のひら全体を覆うようにした。
 手の上には薄い膜が何枚も重なっているが、少々頼りない。
 僕はそのまま、雷鉱石の前に座って、不意に触った。

「シ、シオン!?」

 慌てて父さんが僕の身体を持ち上げて、雷鉱石から離れた。
 その拍子に、持っていたマイカの膜が落ちてしまう。

「な、何をしてるんだ!? 怪我はないか!? 火傷は!?」

 そう言って、父さんは僕の手を何度も見ていたが、怪我はない。
 無事だとわかると、父さんはほっと胸をなでおろす。

「まったく、危ないことはするなとあれほど」
「ごめんなさい、父さん……でも、ほら、何ともないよ。
 やっぱりあれはマイカだったみたい。絶縁体だった」

 父さんが僕を離す。
 僕は地面に落ちているマイカの膜を集めると、父さんに見せた。

「……焦げても焼けてもないな。絶縁体というのは、この雷、ではなく電気を通さないんだな?」
「うん。半信半疑だったけど、これで実証されたね」

 僕達が話していると、グラストさんが言った。

「それで触れば問題ねぇってことか……貸してみな」

 グラストさんは僕の手からマイカの膜を奪い取ると、手のひらの上に重ねた。
 そのまま躊躇なく、雷鉱石に触る。

「確かに、何も感じねぇな。完全に防いでやがる」

 驚きの表情のまま、グラストは僕を見た。
 その目に、強い疑問が浮かび始めると、僕は慌てて二の句を繋げた。

「と、とにかく、これでペラ鉱石だったかな、それが絶縁体だってことはわかったし。
 後は大きめのペラ鉱石を購入して、雷鉱石を運べばいいだけだね!」 

 僕の目的は達成できそうだ。
 これだけのことでかなり時間と労力を消費したけど、しょうがない。
 地球みたいに、文明が発達しているわけでも、便利な道具があるわけでもないんだから。
 不便だけど、別に嫌じゃないかな。
 魔法があるしね。 
 グラストさんは何か考えているようだったけど、特に何も言ってこなかった。
 さすがにまずいことをしたかも。
 父さんや母さんはあまり気にしないでいてくれるけど、誰もがそうだとは限らない。
 グラストさんは良い人みたいだけど、それは何でも受け入れるということじゃない。
 早まったかもしれない。

「よし、じゃあ、街に戻って、ペラ鉱石を購入し、また戻ってこよう」

 父さんは気にした様子はなく、グラストさんを一瞥すると嘆息した。
 父さんも僕と同じように考えたのだろうか。
 でもそれが事前にわかっていたら父さんなら止めたと思うけど。
 そこまで深く考えなかった、って感じなのかも。
 僕もそうだし。
 とにかく、目的を達成できそうだし、早いところ、雷鉱石を持って帰ろう。
 色々と気になることはあった。
 けれど、僕は新たな魔法研究の材料を見つけたことで高揚していた。
 火属性から雷属性へ。
 今度はもっと魔法らしい魔法が使えるといいな。 
 そう思いながら、街へと帰った。

   ●○●○

 ペラ鉱石の膜で包まれた状態で、風呂敷に包み、雷鉱石を持って帰った。
 大きさは二十センチ程度のもの。
 あまり重いと運べないし、危険でもある。
 そのためこれくらいが限度だ、と父さんに言われたのだ。
 僕としては、丁度いい大きさだったので不満は一切なかった。
 それと余ったペラ鉱石は、グラストさんに譲った。
 半額出してくれたので、別に問題はない。
 良い人だ。
 結構高いのに、甥っ子みたいなもんだからなと笑いながら言ってくれた。
 父さんとグラストさんの厚意を無駄にしないように、魔法の研究を頑張ろう。
 ちなみに雷鉱石を持ち出す時、受付の人はものすごい顔をしていた。
 母さんはニコニコ笑っていただけだったけど。
 さて。
 今、僕は中庭にいる。
 雷鉱石は常にバチバチ、ピカピカするので、部屋に置いておけないのだ。
 それに家に燃え移ったら大変だし。
 ということで、中庭の端っこにある、岩場に置いておくことになった。
 雷鉱石は断続的に電流を発生させる鉱物。
 エネルギー源が何なのかとか色々と疑問はあるけど、僕は科学者でも鉱物学者でもない。
 魔法が使えれば他は別にどうでもいいし、調査が必要ならするだけだ。
 離れた場所から姉さん、父さん、母さんが見守っている。
 父さんは目をキラキラ輝かせて、動向を見守っていた。
 母さんは笑顔のまま、僕の姿を見ていた。
 姉さんは、外出しているようだった。
 僕は雷鉱石の前に立ち、手をかざした。
 さて始めよう。
 雷魔法の実験、開始だ。
 僕は右手に魔力を集める。
 集魔状態から、体外放出へ移行。
 手のひら大の魔力の玉が放出され、雷鉱石へと向かう。
 触れた。
 その瞬間。
 青白い電流の色が、一瞬だけ赤白く変色した。
 そしてほんの少しだけ眩く光った。

「おお!?」

 父さんが拳を握りつつ、興奮したように声を上げた。
 が。

「……おお?」

 声に疑問の色が滲み始める。
 雷鉱石は放電し続けている。
 通常通り。青白い電流だ。
 つまり、一瞬で通常の現象に戻った。
 魔力を与えたことで変化したのは、色と光量だけ。
 それ以外に一切の変化がなかった。
 しかも光の量がほんの少し増えただけで、大して意味はなかった。
 更に、火に対して魔力を与えた場合は、放出した魔力はそのまま移動をし、離れて消えていたが、雷鉱石に向けた魔力は一瞬にして消えた。

「失敗したのかしらぁ?」
「そう、みたいだな」

 それぞれの反応を見せる、僕の家族。
 落胆していることは間違いなかった。
 背後で戸惑いの気配がした。
 僕がその場から動かなかったからだろう。
 二人は僕の下へ近づいてきた。

「ま、まあ、失敗するのは当たり前だ。
 今までだって、一杯失敗して、やっと火の魔法が使えたわけだしな。気にするなシオン」

 父さんは僕の肩をポンと叩いて、慰めてくれた。
 その隣で、母さんが首を傾げつつ言う。

「あら? シオンちゃん、もしかして……」

 僕は肩を震わせた。
 それは悲しみから生まれたものではない。
 僕は笑っていたのだ。

「うへ、うへへっへ、へへへっ!」
「ど、どうした!? シオン! 成功してないのに、その顔になるとは……。
 ま、まさか、電気が身体に伝わっていたのか!? それで頭がおかしくなったのか!?」
「あらあら、シオンちゃん、とっても素敵な顔になってるわねぇ。
 うふふ、幸せそうねぇ。お母さんも嬉しくなっちゃうわ」

 僕は父さんに身体を揺さぶられた。

「死ぬな、シオン! 傷は浅いぞ!」

 仮に脳に何かしらのダメージがある場合、そんなことをしたら本当に死んじゃうからやめようね。
 なんてことも、今の僕にはどうでもよかった。

「うへへ、成功したぁ。やったよぉ」
「どういうことだ? どう見ても、失敗だったぞ?
 いや、まさか色が変わったし、光は発生していたから、成功なのか?
 しかし火魔法に比べると、何というかただ色が変わっただけのような気がするが」

 僕は笑顔を我慢しつつ、説明を始めることにする。

「へへ……あ、あのね、火打石から出る火花は厳密には放電で、この電流と同じ現象なんだ。
 それで、魔力に触れさせると青い炎が生まれる、ってことは父さんも知ってるよね?
 この時点で、僕は二つの仮説を立てていたんだ。
 魔力は可燃性物質で、それ以外の特性はないということ。
 もう一つは、魔力は可燃性物質にもなるけど、それ以外の特性があるっていうこと。
 あくまで可燃性物質というのは暫定的で、それは一つの特性でしかないかもしれないけど。
 とにかく可燃性物質としての特性しかないなら、雷鉱石に魔力を接触させれば燃焼を起こすはずなんだ。
 でもそれはなかった。電流の色が変わって、光量が増えた。
 つまり、魔力は可燃性物質としての特性以外にも特性があるってこと。
 僕が想像している色々な魔法を使えるという可能性が高くなったってことなんだ」

 火、この場合は火花だけど、それに接触した場合、魔力は炎を纏う。
 しかし電流に接触させると変色し、発光した。
 まったく別の現象だ。
 科学に基づいて考察することは難しい。僕は理系じゃないし、詳しいわけでもない。
 ということで、僕がやっているのは色々な条件で魔力を触れさせ、その結果を鑑みて、理論を積み重ねるだけだ。
 今回の実験では、魔力の性質を知ることができたというわけだ。
 あくまで一部だけど、それでもこの収穫は大きい。
 だって、火魔法以外にも使える可能性他あるってわかったから。
 まだどうやって雷魔法として活用するかはわからないけど。
 光明は見えたのだ。
 だから僕は笑った。
 劇的な結果は求めてなかったんだ。
 僕はただ、燃えないでくれと願いながら魔力を放っただけ。
 それが叶った。
 だから僕は嬉しくてしょうがなかったのだ。

「ふむ、私も詳しくはわからんが……つまり雷魔法とやらが使える可能性が高くなったということらしいな」
「うん。でも今の状態じゃ、使えないね。
 ただ体外に魔力を放出して接触させても、電流の性質に変化を与えただけって感じだった」
「どういう結果が出れば、成功したって言えるんだ?」

 父さんの疑問を受け、僕は理想的な映像を思い浮かべた。

「うーん、手のひらから目標目がけて電撃を放つって感じになれば、かな」
「手から雷が真っ直ぐ出るような感じか?」
「そうだね。そんな感じだと思う」
「魔法を使う方にも被害が出そうだが」
「手のひらから直接、魔力を放出させた状態で電撃を放った場合はそうなるだろうね。
 火魔法も同じだけど、まずは自分が怪我をしないように考えないといけない。
 その前に、幾つか試さないとだけど……」
「そうか。とにかく、今日はやめておきなさい。帰ってきて、すぐに実験を始めたからな」

 父さんの言う通りだろう。
 朝出発して、採掘場に行ったり、市場で買い物をしたり、他にもついでに買い物もした。
 そのおかげで帰ってきたのは夕方前だったのだ。
 さすがにずっと魔法の研究をするわけにもいかないだろう。 
 本当は、色々と試したいけど。
 今日は一杯、わがままを言ったし、父さんには迷惑をかけた。
 ペラ鉱石も買ってもらったし、採掘場の採掘代も払ってもらったし。
 結構な額になったはずだ。
 貴族の子供でよかった。
 父さんに言われて、僕達は家の中に戻った。
 それは赤く染まり始めている。
 その中で、雷鉱石が断続的に放電していた。 
 僕は思った。
 これは夜は目立つだろうな、と。
 早めに、囲いか何かを作っておいた方がよさそうだ。
 そんなことを思いながら、僕は家の中に入った。

 目次 <<第21話 第23話>>

【第21話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 冬場になり、空気は乾燥しつつある。
 かなり冷え込んでいて、服装も冬服に変わっている。
 寒いのは嫌いじゃない。何となく幻想的な気がして、心が洗われる気がするからだ。 
 さて、フレアの研究を保留にしているが、次にする研究は決まっている。
 電気だ。
 火の次に電気を選んだのは理由がある。
 魔法の属性的に火水風土雷闇聖などがあるが、土水は現象ではなく物質だし、闇聖はよくわからない。
 残りは火風雷で、火に魔力が反応したことを見ると現象に対して、反応すると考えていいと思う。
 風は大気と変わりはしないし、そこら中に吹いているし、すでに魔力が触れていることもある。
 一応、土や水にも魔力を与えたけど変化がなかった。
 そして残りは雷しかない、というわけだ。
 さてここで疑問が浮かぶと思う。
 火打石で生まれる火花の正式名称は、火花放電である。
 つまり火花は電気であり、火属性ではなく、厳密には雷属性であるということ。
 だが実際、火花に魔力を与えると青い焔が生まれる。

 ここで僕は暫定的に、一つの答えに行きついた。
 僕が考える科学や物理法則やらなんやら、それはこの世界では共通ではないか、あるいは魔力はその法則に当てはまらないかのどちらかであるということ。
 魔力という概念が、火花放電を『火属性である』と判断しているということ。
 地球の科学知識では無茶な理論だが、この世界は異世界であり、ここは地球ではない。
 今までも何度も考えていたけれど、常識や当たり前に捕われすぎると答えを見失う。
 そもそも魔力自体、何なのかよくわからないし。
 とにかく火花放電は、僕の考えている分類上では火属性に当たる、というわけ。
 まあ、燃焼も雷もプラズマだから、広義的には分類は同じだけど。
 そしてもしかしたら明確な電流が生じないといけないのではないかという考えに至ったのだ。
 ひょっとして火以外には反応しないのではないかという不安はある。
 それでは僕が望む魔法とは違ってしまうので、そんな結末は訪れないで欲しいものだけど。
 とにかく、まだ実験段階だ。
 ということで、僕は電流に魔力を与える実験を開始することにした。
 問題はこの時代、電気がない。
 当然だけど。

 ということで僕が一から作るしかないわけだ。
 個人が手軽に作れる電気となれば、やはり静電気になるだろう。
 金属やガラスの棒を毛織物や絹織物、羊毛などで摩擦して帯電させることはできる。
 しかし、手に入りやすい鉄は導体なので、絶縁体が必要になる。
 すぐ浮かぶのはゴム。そんなものはない。
 あれ、ガラスって絶縁体だっけ。電気を通しにくい物だっけか。
 そもそも、棒を擦って帯電させて、一気に放電させたところで、火花が散るくらいの電荷が移動するだろうか。
 ネオン管でもあればいいけどないし、というかそこまで来たら、普通に電気があるだろう。
 平賀源内よろしく、エレキテルを造るということならばライデン管が必要になる。
 そもそもこの世界のガラスが、僕の知っているガラスと同じなのか、それ以外の物質も同じ性質なのか、調べないとわからない。
 デンキナマズデンキウナギのような生物がいれば、簡単ではあるんだけどな。
 全部試すという選択肢もあるけれど、それにはかなりお金がかかりそうだ。
 オーダーメイドのガラスや金属の加工は手数料が凄まじくかかるらしい。
 七歳の子供がねだるには、かなり高級だし、父さん達に申し訳がたたない。
 できるだけお金がかからず、電気を発生する装置なりなんなりがあればいいけど。
 摩擦発電機なりを作った方が確実ではあるんだけど、合成繊維も合成樹脂もないから、視認できるほどの静電気を発生させるには一苦労する。
 昔の人って静電気に悩ませられることはあまりなかったって聞くしなぁ。 
 さてどうするか。
 すぐに壁にぶち当たるな、僕は。
 とりあえず、父さんに聞いてみよう。
 僕は部屋から出て居間へ向かった。
 今日、父さんは休日らしく、家でくつろいでいた。

「どうしたんだ、シオン。今日は魔法の研究はいいのか?」
「うん。ちょっと行き詰ってて。それで父さんに聞きたいんだけど。
 電気を発生する生物とか道具とかないかな?」
 父さんは顎を指でいじりながら言った。
「電気、とはなんだ?」

 それはそうか。
 電気なんて言葉自体ないもんね。

「えーと、雷みたいな現象のこと」
「雷を発生させる生物や道具はないな……雷そのものではいけないのか?」
「放出した魔力を接触させたいから。雷だと不規則だし、何より危険だからね。
 避雷針でも立てて、待ってても、いつ来るかわからないし」
「よくわからんがわかった。しかし電気か……。
 雷ほどではないが、似たような現象を見たことがある、と聞いたような」

 静電気の類だろうか?
 視認できるのならば、それなりの電力が発生しているということ。
 どんな方法で発生させているのか。
 でも現象って言ったから、自然現象っぽいな。

「グラストがそんなようなことを言っていた気がする。
 よし。まだ朝だし、今日はイストリアに行くか」
「うん、行きたい!」

 今日、母さんは出かけている。
 どこに行っているのかは知らないけど。
 姉さんは剣術の鍛錬をしたいので残ると言った。
 あの日から、ずっと剣術の稽古をしている気がする。
 僕も魔法の研究をしているけど、大して身体に負担はかからない。 
 けれど剣術の稽古はかなり疲労する。
 それを長い間しているというのはどうだろうか。
 気がかりだし、時折、休むように、父さんと母さんは言っているみたい。
 僕は、少しだけ険悪になって以来、剣術に関して話すことはできなくなっていた。
 普段は別に変っていない。普通に話す。
 でも剣術に関して、僕が話すと、姉さんは明らかに嫌がっていたからだ。
 僕もそんな姉さんを見たくなかったので、自然と剣術に関して話すことはあまりなくなっていた。
 多分、姉さんは自分を追いつめているんじゃないだろう。
 今のところ大きな問題はないため、様子を見守ることにしている。
 ということで、僕と父さんは男同士で街へ繰り出すことにした。
 準備をして、外に出ると、父さんは馬を用意しているようだった。

「あれ? 今日は馬車じゃないの?」
「ああ。今日は買い出しの予定はないからな。
 馬だけで移動した方が早い。馬車の半分の時間で到着するぞ」

 それはそうか。
 でも馬に乗るのは初めてだ。
 ちょっと怖いかも。

「ほら、乗りなさい」

 父さんが僕の身体を抱き上げて、馬の上に乗せてくれた。
 思ったより硬い。
 これ、かなりお尻が痛いのでは。
 父さんは僕の後ろに乗ると、手綱を引いて、馬を歩かせた。

「け、結構揺れるんだね」
「慣れない内は、お尻が痛くなるな。少しの辛抱だ。我慢しなさい」

 この世界の人達の少しは、一時間以上。
 時間の感覚がおかしい。
 多分、地球のように娯楽が溢れていたりしないからだろう。
 じゃあ、数分はどんな風に言うのか?
 今すぐ、だ。

「それ、走るぞ! 掴まれ」

 僕は蔵にある突起物を掴みながら姿勢を低くした。
 速い。
 速すぎる。
 馬ってこんなに早いのか。
 走っていると言うより、地面を滑っているような。
 人が走る時とは全然違う。
 でも、やっぱり振動が伝わってきて、臀部が痛い。
 最初はまだよかった。
 数分、十数分が経過すると、ヒリヒリし始める。
 次第に骨まで痛みが伝わり、僕は腰を僅かに上げようとした。

「姿勢を低くしていなさい」

 父さんに言われては何も言えない。
 揺れが激しいので、無理に姿勢を高くすると落下してしまう。
 それはわかるし、父さんは僕の身体を抱きしめながら、馬を走らせている。
 つまり速度的にはそれほど出ていないのだろう。
 それでも速いし、お尻が痛い。
 これ、全力で走らせたらどうなるんだろう。
 僕のお尻は破裂するんじゃないだろうか。
 なんとか我慢して一時間程度。
 イストリアに到着した頃には、僕のお尻は感覚が麻痺していたし、疲労困憊だった。
 馬車で移動した方がよかったのではないかと思ったほどだ。

「僕、馬嫌い……」
「何を言ってる。馬に乗れないと大人になった時、困るぞ。
 ずっと私が馬に乗せてやるわけにもいかん」

 想像してみた。
 大人の男が、父親の操る馬に二人乗りしている姿を。
 なんか、嫌だった。
 乗馬の練習は必要なようだ。
 まだ、背が足りないから、今の僕には必要ないと思うけど。
 とにかくイストリアには着いたのだ。
 文句もこれくらいにしよう。
 父さんがわざわざ連れてきてくれたのに、愚痴を言うのは憚られる。
 ということで、僕達はグラストさん店へ向かった。

   ●○●○

 父さんと共にグラストさんの店に行くと、中へ入る。

「いら……おう、なんだガウェインか。今日は二人だけか?」
「ああ、少し聞きたいことがあってな。今、いいか?」

 グラストさんは嘆息しながら両手を広げた。

「忙しく見えるか? 暇すぎて、店じまいしようかと思ってたくらいだ」

 まだ昼前なのに判断が早いんじゃないだろうかと思ったけど、どうやらただの冗談のようだった。

「で、なんだよ」
「以前、雷のような現象が起こる鉱物があった、という話をしていたな? 覚えてるか?」
「ああ、雷鉱石(らいこうせき)のことか。覚えてるぜ。それがどうしたんだ?」
「実は、少し興味があってな。その雷鉱石とやらを手に入れられないかと思っているんだが」

 あれ? そんな話までいってたっけ?
 僕はそういう生物か道具みたいなものはあるのか、と話しただけだ。
 でも父さんは手に入れる気、満々って感じだった。
 先回りされてしまった。
 あんまりお金を払ってもらうのは気が引けるんだけど。
 そんな僕の思いを知らずに、父さんはさっさと話を進めていく。

「雷鉱石をか? そりゃ難しいな」
「希少なのか?」
「いや、結構見かけるぜ。鉱山にもあるし、採掘も許可を貰えば問題ねぇ。
 けどよ、採掘は不可能だ。運搬できねぇからな。
 雷鉱石ってのは常に雷を放っててな、触れねぇのよ。だからそのまま置いてあるって感じだ。
 邪魔だし危険だけど、移動もさせられねぇから、放置してるんだと。
 発見当時は観光に遣ったりしようとした動きもあったけどよ、危険だし、ずっとピカピカしてるだけだからな、すぐに廃れたとか」

 父さんは僕に視線を送った。 
 状況を聞いて、どうするか尋ねている感じだ。
 グラストさんの話を聞く限りでは、放電現象がある鉱石のようだ。
 さすが異世界って感じ。
 でも放電が激しくて触れないし、近づけないし、利用方法もないから放置している、と。
 僕としては雷鉱石自体を調べたいわけじゃなく、魔力を与えてどんな反応をするかみたいだけなんだけどな。
 どうしようかな。
 アイデアはあるんだけど、なんかまずい気もするなぁ。
 だって雷鉱石って、要は発電機の役割を担っているわけだし。
 こんな便利なものが地球にあったら、いろんな方面でブレイクスルーしそうだ。
 この時代、電気は発見されていないし、活用するって考えも技術もないだろう。
 それにただ雷鉱石を運搬するだけだ。
 せいぜい、見世物にするだけか、灯りに使う程度だろうと思う。
 問題はないかな。多分だけど。
 とりあえずあるかどうかはわからないけど、聞いてみるかな。

「グラストさん。白い粘着質な樹液を出す木ってありますか?
 独特のにおいがすると思うんですが」
「……いや、しらねぇな。植物学者だったら知ってるかもしれねぇけど」

 ゴムの木はないのかな。それともまだ見つけられてないのか。
 異世界だし、地球と同じものがあるとは限らない。
 とりあえずゴムは保留か。

「じゃあ、マイカ、いや雲母(うんも)かな、っていう鉱物ってあります?
 ちょっと特殊な鉱物で、いくつもの層になっていて、薄く剥がれるような鉱物なんですが。
 結晶みたいな感じだったりするはずです。やや透明、かな?」

 正確には白雲母。絶縁性のある鉱物で、現代でも広く使われている。
 この文明で作れるものと言ったら、後はガラスくらいか。
 最悪、絹織物を重ねて強引に運ぶとかするしかないかも。
 どれくらいの電力なのかわからないから、危険だけど。

「マイカ? いや……名前は知らねぇな。でも、同じような特徴の鉱物はあるぜ。
 まったく使えないってんで、利用されてねぇけど。ペラ鉱石だろ?
 待ってな。昔、採った奴があったはずだ」

 グラストさんは店の奥に行くと、すぐに戻ってきた。
 手には何かの鉱物を持っている。
 白と黄色が混じったような見た目だった。
 昔図鑑とかで見ただけだから、あんまり自信はないけど、多分、白雲母で間違いない。

「これか? 形は面白いし、綺麗な見た目だから、とっておいたんだ。
 まあ、珍しいもんじゃないし、観賞用だな」
「見せてもらえますか?」
「ああ、構わねぇよ」

 僕はグラストさんからマイカ、白雲母を受け取ると、よくよく観察した。
 見れば見るほど似ている。この鉱物が僕の知っている好物なのかはわからないけど。
 でも、生活用品に使われている素材は、基本的に地球と同じような名称だ。
 麻とか綿とか鉄とか銅とか。
 だったら特徴が同じものは、同一のものの可能性も高い。
 それでも雷鉱石のような特殊なものもあるので、注意が必要だ。
 問題は、マイカをどのように加工するか。
 手作業でできるマイカの加工は剥がしか集成。
 というかそれしか知らない。
 マイカは薄く剥がすことができ、それを重ねて張り合わせることで、一枚のシートにする。
 それを絶縁体とした活用する方法が昔、使われていたと思う。
 そしてマイカを砕き、紙すきの要領で一枚のシートにする、という方法が一般的になっている。
 ただ張り合わせるよりは、紙すきで完全に一枚にした方が強度も張力も跳ね上がる。
 つまり壊れにくくなるし、ある程度の変形も可能、というわけ。
 そも、張り合わせるものがあるのかもわからないしなぁ。  
 でもなぁ、そもそもマイカって砕いて紙すきするだけで、加工できるんだろうか。
 原料が他に必要だったりしないかな。
 それに紙すきに必要な道具が必要になる。
 じゃあ、スノコがいるのか?
 それに大量のマイカを砕いて、水に入れて、掬いながらの作業になる。
 もっとマイカが必要だ。
 というか砕いたマイカって浮くのか?
 鉱物なのに。鉱物だから重いっていうのは先入観か。
 でもこの世界で、僕の知識が通用するかどうかも分からないのか。
 そもそもだ、僕の知識が正しいのかも半信半疑なんだよなぁ。
 学生時代の知識なんて、社会人になると忘れるし、こんな知識必要ないしなぁ。
 というかこれマイカなのか。
 ああ、だめだ。なんか堂々巡りになっている気がする。
 僕がうんうん、唸っているとグラストさんが父さんに言った。

「で? 何しようとしてんだ?」
「さあな。息子の考えはよくわからん」
「シオンの考えか? 子供のやることってのはよくわからねぇな」
「……それはどうかな。シオンが、その子供の考えをしているとは限らんぞ」
「それはどういうことだよ?」
「見ていればわかる。多分な」

 僕が思考を巡らせている間も、父さんとグラストさんは待ってくれていた。

「うん、無理して造る必要はないかな。僕の目的は別のところだし。
 よし! ねぇ、グラストさん。この鉱石、もっと大きいのはないかな?」
「あるぜ。大体、こんくらいのが」

 手を広げて大きさを教えてくれた。
 大体、六十、七十センチくらいかな。
 大きいな。そんなマイカなんてあるのだろうか。
 異世界にだけ存在する物なのかも。
 しかしそれだけのサイズがあれば、問題ないか。

「じゃあ、それが欲しいんだけど」
「あー、まあ、なくはないんだけどよ、結構高いぜ? 役にも立たない、ただの観賞用だし」

 高いのか。
 うーん、僕はお小遣いをもらってないし、何かを買う時は、父さんに頼むしかない。
 でも六歳の子供がねだる値段じゃないかも。
 どうしよう。

「どれくらいだ?」
「4000リルムだな」

 50リルムでじゃがいも一個、という言葉がある。 
 じゃがいもは不作の時でも収穫できることが多く、値段は据え置きになりやすい。
 そのため値段の基準にされることが多いようだ。
 つまりじゃがいも八十個分の値段。
 まあまあ高い、のかな。

「わかった。どこで売っている?」

 僕が何か言う前に、父さんはグラストさんに平然と聞いた。

「交易所だな。ずっと置いてあるから、値段は変わってねぇと思うぞ。
 誰も買わねぇし、観賞用としても人気もあんまねぇみたいだな」

 僕は慌てて、父さんの服を引っ張る。

「と、父さん、まさか買ってくれるの?」
「うん? 当然だろう。必要なのだろう?」
「そ、それはそうだけど。でも高いし」
「子供が値段を気にするな。それに、シオンは今まで物をねだったことは一度もないだろう。
 マリーにはそれなりに買い与えてきたし、問題ない。
 いいか、シオン。もう少し、父さんにわがままを言っていいんだ。
 ダメなら、ダメと言うし、いいなら、いいと言う。何も伝えず、我慢する必要はないんだよ」

 父さんは僕の肩に手を置いて、優しい笑顔を浮かべる。
 本当、この人が父さんでよかったと思った。
 僕が父親になった時、こんな風にできるとは思えない。

「…………子煩悩な父親だな」
「うるさいぞ、グラスト。私は父親なんだ。子煩悩でない方がおかしい。
 ではシオン。交易所に向かうか」
「あ、その前に、試したいんだ」
「試す? そういえば、この鉱石を何に使うか聞いてなかったな」

 まったく用途も聞かずに買い与えるなんて。
 僕は苦笑しながら、答える。

「この鉱石は絶縁体、えーと、電気を、じゃなくて……雷みたいなものを通さない、可能性があるんだ。
 だからこれを使って、雷鉱石を運べたらなって思って」

 雷鉱石が採掘場にあるとして、そこで魔力を与えて、研究をすることはできる。
 でもそれでは人目に付くし、父さんとの約束を破ることになる。
 魔法の研究は隠れて行うようにしなければならない。
 僕も、別に魔法をひけらかしたりするつもりはないので、異論はない。
 ただ、魔法が使いたいだけだしね。
 僕の答えを聞くと、父さんとグラストさんは顔を見合わせる。

「それは本当かシオン」
「わかんない。だから試したいんだ」
「なぜそれを知ってると聞いても、意味はないんだな?」
「………………うん」

 僕は七歳の子供。
 人が知らない知識を持っていれば、怪訝に思って当然だ。
 子供はおかしなことを言うものだとしても、それは常識の範疇のこと。
 僕が話している内容は明らかに異常で、普通ではない。
 それを今まで父さんが受け入れてくれていたのは、父さんが寛大だったというだけ。
 普通の人は、僕のことを気味悪がるだろう。
 もっと追究する方が当たり前だし、魔法の研究を止めさせるべき、と考えるだろう。
 でも父さんは、ただ何かを考えて、

「そうか、まあいいだろう。では、採掘場で試してみるか。近いんだろう?」

 と簡単に言ったのだ。
 何となく想像はついていたけど、僕は感謝を禁じ得ない。
 こんなにいい父さんの子供に転生できてよかったと心の底から思った。
 グラストさんは後頭部を掻いて、何やら思案顔だったけど、僕に質問することはなかった。

「ああ、徒歩でもすぐに行ける距離だ。んじゃ、行くかね」

 グラストさんは僕の頭をぽんぽんと叩き、外に出ると、店の扉に鍵を閉めて、閉店のプレートを扉に下げた。
 いいのかなと思ったけど、グラストさんは何も言わなかった。
 だから僕も何も言わなかった。
 ただなんとなく、引っかかる。
 あまりにとんとん拍子に進んでいるから、少し不安なのかも。
 まあ、気にする必要はないかな。
 そう思い、僕は父さん達の後を追った。

 目次 <<第20話 第22話>>

【第20話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 それから一週間。事件から一ヶ月以上が経過した。
 完全に傷が治った母さんが、家事を始めるようになった。
 そして、居間に集まり話し合いを始めた。
 魔法のことや、ゴブリンのことを母さんにはまだ話していなかった。
 傷に障るし、今は静養させようと思ってのことだった。
 経過はよく、傷跡もほとんど残っていないらしい。
 以前と変わりなく元気な様子だった。

「それで、どんな話なのかしら?」
「実は――」

 柔らかく笑う母さんを前にして、僕達は話し始めた。
 父さんに話したように経緯を説明した。
 まったく同じような内容。
 僕達が話し終えると、母さんは言った。

「あらあらそうなの。よくわからないけれど、シオンちゃんの好きにしていいわよぉ。
 それと、ふふ、シオンちゃん、ありがとね。
 お母さん、あんまり覚えてないけれど、シオンちゃんが助けてくれたのね。自慢の息子だわぁ」

 柔和な笑みを浮かべている母さん。
 すべてを受け止めてくれたおおらかさに、僕は感謝した。
 こんなに寛大な親はそうはいない。

「でも、これからは何かあったらお母さんやお父さんに言ってねぇ。
 きっと力になれるし、なれなくても話すだけでわかることもあるのよ」
「うん、今度からはそうするよ。父さんとも約束してるから」
「ふふ、じゃあいいわ。頑張ってね」

 僕達は戸惑いつつも母さんのニコニコ顔を眺めた。
 父さんもそうだけど、僕の両親は寛大すぎる。
 でもだからこそ、僕は自由でいられるんだ。
 強い感謝と敬愛を以て、僕は笑顔を浮かべる。
 そして決意を新たにした。
 これで憂いはない。
 これからはもっと魔法の研究に勤しもう。
 さあ、頑張るぞ。

   ●○●○

 しばらくして。
 家の修理も完全に終え、色々と落ち着いた時期を見測り、また剣術の稽古が始まった。
 マロン、レッド、ローズの全員が集まり、僕は周辺を走り回るだけ。
 魔法の研究がしたいけれど、父さんに身体を鍛えることも大事だと言われ、鍛錬を続けることになった。
 まあ、魔法を使えても、身体が動かないと、後々困りそうではある。
 何があるかわからないし、魔物がまた来るかもしれない。
 だったら鍛えることにも意味があるだろう、と無理やり自分を納得させた。
 ゴブリン襲来から、今まで一度も三人とは会っていなかった。
 僕達は色々と忙しかったし、気を遣ったのかもしれない。
 村の人全員からお礼を言われたり、色々と心配されたりしている。
 それはローズたち三人も一緒で、開口一番、お礼を言われた。
 さて中庭の中心で父さんがマリーを含む四人の練習を見ている。
 僕は外周を走りながら、頭の中で魔法の研究のことを考えていた。
 しかし、マロンとローズは頻繁に僕の方を見ていた。
 それも仕方のないことだろう。
 ゴブリンを倒したのは僕だ。
 しかもその後、母さんの治療の指示をした。
 表立っては何も言われないが、心の中でどんなことを考えているか、わからないでもない。 
 聞きたいけど、聞けない。
 そんな感じなのかもしれない。
 けれど父さんは領民達に詳しく説明していないだろう。
 説明しようがないし、真実を話しても、混乱させるだけだ。
 口外しないように、という話だけはしているらしい。 
 領民の人達は優しいが、全員が全員、黙っているかは疑問だ。
 それでも、今のところは問題はなかった。
 剣術の練習中、頻繁に二つの視線を感じ続けた。
 特にローズの視線はあからさまで、なんというか居心地が悪かった。
 しかし結局、何を聞いて来るでもなく、その日は終了した。
 そして、それ以降も、マロンとローズが僕に事情を聞いてくることはなかった。

「よし! 今日の稽古はこれまでだ!」

 父さんの声と共に、稽古は終わった。
 片づけをして、三人は家に帰っていく。
 何も言わなかった。
 いつも通りではなかったけれど、普通に接そうとしていたように思える。
 今日、何も言わないのならば、これからも何も言わないのだろう。
 もやもやする。けれどそれは僕よりも三人の方が強いだろう。
 汗を拭い、木剣やらを片付け、家に戻ろうとした。
 けれどまだ姉さんは中庭に残り、素振りを続けていた。
 毎日のことだ。
 姉さんは稽古が終わってもずっと一人で黙々と鍛錬を続けている。
 あの日以来、姉さんは変わってしまった。
 普段は普通だけど、剣術に対して、かなり執着するようになってしまった。

「マリー、今日はそれくらいにしておきなさい」
「……まだ、大丈夫。ご飯は戻るから」
「しかしだな」
「一杯、稽古した方が強くなるってお父様も言っていたでしょ?」
「それは言ったが、それには限度が」

 父さんが諌めるくらいに、姉さんは根を詰めすぎているような気がした。
 今回に限っては父さんに同感だった。

「姉さん、父さんがこう言ってるんだし、そろそろ」

 僕が言うと、姉さんは手を止めた。
 わかってくれたのかと思ったけれど、姉さんは僕を睨んだ。
 そんな顔を見るのは初めてで、僕は面喰ってしまった。
 いつも一緒で、仲の良かった相手の怒りが自分に向けられているという事実に。
 僕は酷く動揺し、心臓が早鐘を打ち始めた。

「わかったわよ。シオンが言うなら……そうするわ」

 睨んだのは一瞬だけで、すぐに俯いて、姉さんは家に入っていった。
 その反応に、僕は何も言えなかった。
 ただ動揺し、その場に立ち尽くした。
 するとポンと頭に何かが触れた。

「気にするな。マリーは少し気が立っているだけだ」
「…………うん」

 色々とあったし、怖い目にもあった。
 あんなことに遭遇したら、それは普通ではいられないだろう。
 ゴブリン襲撃後、父さんも母さんも普通にしているが、内心では色々と思いがあるはず。
 僕にも、あれ以来、魔物から自分や家族を守るために、魔法を使おうという考えが生まれた。
 マリーは、魔物と直接対峙した上に、自分を庇って母さんが怪我をしたのだ。
 何も思わずにはいられないだろう。
 もしかしたら嫌われてしまったんだろうか。
 そう思うと、僕は怖くてしょうがなかった。
 それほどに僕の中で姉さんの存在が大きくなっていたからだ。
 僕は父さんと共に、家に戻った。
 気まずさを残したまま、その日は終わりを告げた。

   ●○●○

 火属性魔法、試作段階ではあるけれど、僕はこの魔法に名前を付けた。
 フレア。
 現段階では正式な魔法ではないので、試作フレアと暫定的に呼ぶことにする。
 試作フレアは火と反応した魔力が上空へ向かう。
 そのため攻撃手段としてはまったく活用できないし、何かしらの利便性もない。
 これがまっすぐ飛ぶことが、第一条件だ。
 火力は低いが、鬼火程度にはなるだろう。
 これには更に魔力への意思を込める必要がある。
 つまり『右手から魔力を真っ直ぐ放出する』という命令である。
 帯魔状態から集魔状態へ移行し、六割程度を体外放出する、という流れになる。
 気づいたんだけど、魔力に何かしらの意志を伝達、つまり命令をすると、移動させることができる魔力量が減っているようだ。
 そして、実感はないけど、命令ごとにある程度は魔力を消費しているのかもしれない。
 そこで実験をした。
 限界量の体外放出をできるだけ近くでした状態と、真っ直ぐ離れた場所に向かい体外放出した状態で、魔力量は同じなのかどうか。
 結果は、後者の方が僅かに魔力量が少ないようだった。
 目測だけど、間違いない。
 つまり火力が弱くなっていた。
 離れれば離れるほど火が小さくなる、ということだ。
 現在、一日に発動できる帯魔状態は三十回が限界。
 つまり、三十回までならば試作フレアを発動できるということでもある。
 一応、魔法として扱うようにはできているわけだ。

 真っ直ぐ飛ぶ、火の塊。
 これだけで結構、脅威なのではないだろうか。
 まあ、別に何に使うってわけじゃないんだけど。
 もし、またゴブリンやら魔物がやってきたら、使えるだろうし、役に立たないわけじゃないと思う。
 ちなみに物に使ってみた。
 岩のような硬い物には、当然ながら大した影響はなかった。
 しかし木のような可燃物には効果があり、離れた場所で燃やすことが可能だった。
 ただ、僕が抱いている火属性の魔法のように、触れた瞬間爆発したり、相手に刺さったりはしない。
 ただ触れて燃える、この程度だ。
 それでもかなり有効な攻撃手段ではある。
 相手に松明を近づけるようなものだからだ。
 それを三十回も使える。
 あれ、これもしかして結構強いんじゃ。
 しかし僕のもっぱらの仕事は決まっていた。

「シオン、火をつけてくれるか?」

 父さんに頼まれて、薪に火をつけた。
 そろそろ気温が低くなってきて暖炉が必要になっている。
 そのため毎回、僕が火をつけるようになっている。
 手作業で火をつけるのは時間がかかるし、手間だ。
 そういうことから、僕が火をつけることになっているのだが。
 僕は携帯用の火打石を叩き、試作フレアを生み出し、薪に火をつけた。

「ありがとう、助かったぞ。青い炎は少し違和感があるが」
「うん、なんか地味だけど」
「何を言ってるんだ。こんなこと普通はできない。
 魔法を使えるのはシオンだけだ。すごいことだと父さんは思うぞ」

 褒められているのか、利用されているのか微妙なラインだと思う。
 でも、役に立たないよりはいい。
 ちょっと想像していたのとは違うけど、まあ悪くはないさ。
 しかし次はどうするかと、また行き詰ってしまった。
 火属性の魔法。
 それには点火源が必要だ。
 魔力は気体の可燃物で、酸素供給はされるから問題はない。
 しかし点火源の火打石は必須だ。
 これがなくては魔力に火をつけられない。
 それをどうにかして、何もない状態のまま、魔法を使えればいいんだけど。
 どうしても何もない、あるいは杖のような触媒を使って魔法を使用するというイメージが先行している。
 というか、理想はそれだ。
 火打石を常に持っているのはちょっと格好悪い気がするんだ。
 いや、もう十分魔法を使えているという実感はあるけれど、僕の目的はもっと先だ。
 なんというか大魔法的なものを使えるようになりたい。
 可能か不可能かはわからないけど、あくまで夢は持ち続けていたい。
 とにかく、どうにかして空手の状態で魔法を使えるようにしたいところだ。
 とはいえ、まったくその方法が浮かばない。
 フレアに関しては、これ以上の進展はないかもしれない。 
 行き詰ったら別のアプローチをする。
 それが僕のやり方だ。
 とにかく。
 フレアの研究はここで一旦、保留とする。
 次の研究に移ることにしよう。

 目次 <<第19話 21話>>

【第19話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 実験は始まった。
 かなり無茶な実験だった。
 渋る父さんを説得し、実験に付き合ってもらうことにした。
 というか僕とマリーでするのは許可されなかったからだ。
 それは僕としてもありがたい。
 やはり父さんがいる方が心置きなく実験ができるからだ。

「本当にやるんだな、シオン」

 頬を引きつらせながらも、父さんは僕の隣に佇んでいた。
 僕は上半身裸だ。
 そうしないと危険だからね。

「もちろんだよ、父さん。こうなったらとことん付き合ってよね!」
「くっ! 我が息子のキラキラした顔を見ては、断れん。
 いいだろう。どこまでも付き合ってやる! さあ、来い!」

 遠くの方で姉さんが素振りをしている。
 今日はこちらに加わる気はないようだ。
 まあ、どちらかと言えば、姉さんは別に付き合ってもいいよ、って感じだったからな。
 父さんは結構ノリノリだけど。
 それに最近は姉さんは剣の稽古をしている時間が多い気がする。
 ゴブリンとの戦いを気にしているんだろうか。
 魔物と対峙して怖かっただろうし。
 姉さんは表には出さないし、何も言わないけれど。
 心配だけど、僕はいつも通りに振る舞った。
 僕が魔法がないことで悩んでいた時、姉さんも同じようにしてくれたからだ。
 もし、姉さんが何か思い悩み、苦しんでいたら、その時は手助けするつもりだ。
 黙々と剣を振る、姉さんの横顔を見て、僕はそう決意していた。
 僕は焚火を前に、魔力を右手に集める。
 集魔した魔力と火の反応実験だ。
 ただし条件を少しずつ変えて実験をする。
 集魔量の増減での変化、火の強さの違いによる変化、火ではなく高熱に対する反応など。 
 色々な条件を変えて、結果を記録する。
 地味な作業だが必要なことだ。

「行くよ! 父さん!」
「いつでもいいぞ!」 

 僕は魔力を火に接触させる。 
 途端に、火が燃え移る。

「熱いいぃぃっ!」
「どっこいしょ!」 

 父さんが桶に入った水をぶっかけてくれた。
 火は消える。

「あ、熱い! 温度は変化なし! 煙は黒めの灰色。炎の色は青。火の量をもっと増やして!」
「よし、薪を増やすぞ! ……準備できたぞ!」
「うん! 行くよ!」
「いつでも来い!」

 僕は手に魔力を集める。
 火に魔力を与える。
 燃え移る。

「熱いよおぉおぉぉっ!」
「はいよっ!」

 バサッと水が降りかかる。
 火は消えた。

「お、温度に変化なし。というかわかんない! 煙も炎も色も変化なし!
 次は魔力量を減らしてからやってみる」
「よし、来い!」

 魔力量を少なくして、火に触れた。
 同じように瞬時に燃え移る。
 熱い。けど火の勢いは弱いようだった。

「あっついぃっ!」
「どりゃああぃっ!」

 手馴れてきた父さんは、滑らかな所作で桶に入れた水を僕にかける。
 手に火傷を負うほどではない。
 かなり一瞬だし、魔力の炎は実際の火よりも熱くないからだ。
 でも我ながら無茶な実験だ。

「お、温度変化はわからない! 煙、炎の色には若干の変化あり。
 火の量は少なかった。魔力量によって、燃え移る火力は変わる!
 つ、次は――」

 なんてことを続けた。
 その日から、毎日のように続ける。
 父さんがいない日は火属性魔法の研究は危険なのでやめて、魔力の鍛錬に時間を使うようにしている。
 それから一ヶ月。
 わかったことは幾つかあった。

 一つ。集魔した魔力放出量によって燃え移る火の量は変わる。
 魔力が多ければ多いほど、手にとどめる火の強さが決まる。魔法のイメージとこの部分は同じだ。
 魔力消費量に伴って、強力な魔法が使えるからだ。

 二つ。色々な燃焼を試してみたけど、火以外でも反応した。
 高温であれば一応は着火するらしい。

 三つ。帯魔状態で触れても、普通に燃え移るだけ。
 これは当然だが、帯魔状態だと、普通に人体に火が燃え移るような反応だった。
 火の色も赤いまま。つまり普通に燃えた。

 四つ。これは集魔に関係することでもあるけど、手袋のように身体の一部を覆っている状態で、集魔をしても、魔力は衣服を通して体外に放出される。
 そしてその状態で火に触れさせると、同様に火が燃え移り、手袋が燃える。

 以上の四つをまとめると。
 魔力量によって火力を調整できるが、身体に燃え移るので実用性はなく、危険。
 そして魔力は、どうやら可燃物質のような役割をしているということが分かった。
 ただこれは一つの性質でしかなく、それがすべてではないはずだ。
 魔力の反応によって、様々な変化があるし、他の現象に対しても実験をしようと考えてもいる。
 一ヶ月、色々と試したが、これ以上の成果は得られないと判断した。
 そして今、居間に至る。
 テーブルにつき、僕と父さん、姉さんは話し合いを始めていた。

「シオン、この実験、中々に有意義だったと思うが、どうも先に進んでいる気がしない。
 魔法とは火などを生み出すものだと言っていたな。
 生み出すという段階は難しいことはわかる。そこで私達は火を扱うという目的を定めている。
 その上で発言するが、このままではそれも難しそうだ。
 ただ魔力に火が燃え移っているだけだからな。
 多少の調整はできるが、そこで留まっては意味がない」
「そうだね。父さんの言う通りだと思う。
 初期段階としては、炎を手のひら、あるいは手自体に宿らせて、それを別の標的に向けて放出するか、飛ばしたいんだ。
 でもそこまでは行きそうにない」
「火を通さない手袋をはめることができればあるいは……しかし、そんなものは存在しない」

 完全な防火手袋なんてあるはずない。
 そんなものがあれば、この世界の消火活動は楽だろうけど。
 僕と父さんがどうしたものかと唸っていると姉さんが、おずおずと言い出した。

「ねえ、あれは? トラウトの光の玉。あれって魔力の玉だったんでしょ?
 だったらあれができれば手から離れた状態で火を移せるんじゃ」
「うん。それは僕も考えたんだけど、中々できなくて……」
「え? できるわよ?」

 姉さんは軽く言うと、手のひらを上に向ける。
 するとすぐに手のひらから小さな光の玉が浮かび、そのまま上空へ浮かぶと徐々に消えた。

「……へ? ど、どどど、どうしてできるの!?
 というかいつの間に、集魔までできるようになったの!?」
「シオンにやり方を聞いて、自分でやってみたらできたの。
 でもシオンほど魔力放出量だっけ? それは多くないみたいだけど」

 これが天才という奴か。
 僕は魔力鍛錬に時間を費やしたのに、姉さんは剣術の練習をしながら、片手間で集魔どころか、魔力の体外放出までできるようになっていたのだ。

「ど、どうやってるの?」
「普通に。手のひらから、出そうとして出してるわよ?
 でも結構調整が難しいのよね、これ」

 とか言いながら何個もぷかぷかと玉を浮かばせている。
 僕は一つもできないのに。
 無力感に苛まれつつも、僕は前向きに考えることにした。 
 人にもできるということが実証できたのだ。
 だったら僕にもできるはず。
 でも僕は一度も体外放出ができていない。
 姉さんは簡単にやっているけれど。
 手のひらから浮かぶ玉。ピンポン玉ほどのサイズ。
 そして集魔の状態を観察する。
 僕に比べるとかなり薄い魔力の膜が張っているだけだ。
 魔力放出量の差があるのはわかる。
 でも、それにしてもかなり光が弱いような。
 閃いた!
 僕は手のひらに魔力を集中させた。
 そして、意識を集中して、魔力を放出させようと、意志を込める。
 次の瞬間、野球のボールくらいの光の玉が浮かび上がると、そのまま上空へのぼり、消えた。

「あら、できたじゃない」
「できたのか? 私には見えないのが、歯がゆいな……しかしどうやったんだ?
 今までできなかったんだろう? それが突然できたのはなぜだ?」
「えーと、簡単に言うと体外放出する魔力量の調整がおかしかったんだと思う。
 一度の総魔力放出量が100として、今の僕の集魔は80くらいが限界。
 右手に集まった80の魔力を、僕はそのまま体外に放出しようとしたんだ。
 でも放出するには、手のひらに魔力を残さないといけなかったんだ。
 放出するという現象にはエネルギーが必要だし、手のひらに残った魔力があるから放出することができるからね」

 天井に付着した水分から水滴が落ちる状態を想像すればわかりやすいだろう。
 水分すべてが地面に落ちることはなく、幾分かの水分は天井に残る。
 それを強引にすべての水を落とそうとしても無理があったのだ。
 考えてみれば、集魔時に身体に何割かの魔力がどうしても残る理由にも繋がる気がする。
 身体に帯びた魔力をすべて吐き出すことはできず、そして吐き出すには、相応の魔力が必要になる。
 必然、放出には60程度の魔力しか込められないと言うことになる。
 かなり非効率的な気がするけど、今は気にしなくていいかな。

「早速外に行こう!」
「ああ、父さんも行こう!」
「はぁ……もう、二人して楽しそうで羨ましいわ」

 二人を伴い外へ。
 いつも通り焚火を準備してくれる父さん。
 僕も上半身を脱ぎ、桶に水を入れた。
 姉さんは少し離れた場所から見守っている。

「よし、準備できたぞ、シオン!」
「じゃあ、行くよ!」

 手を焚火に向ける。
 手のひらに集魔。
 そこから体外放出。
 手から離れた魔力が火に触れると、青い焔を放ち始める。
 その状態のまま上空へ浮かび、そして途中で消えた。

「お、おお」
「おおおおおおおっ! 浮かんだぞ、シオン!」

 喜びから、笑顔になる僕と父さん。
 姉さんも、呆れたように笑いながらも拍手してくれた。
 ついに。
 できた。
 これが魔法だ!
 え? しょぼい?
 いいんだよ。まだ試作段階なんだから。
 ここに試作魔法第一弾ができたのだ。
 僕が知っている魔法に比べればお粗末なものだ。
 だって火がただ浮いて消えるだけだから。
 でもこれを僕が考え、見つけ、生み出したということが重要だ。
 この世界には魔法がない。
 それを僕が見つけたのだ。
 そして何よりも嬉しいこと。
 魔法が使えたということ。
 それが嬉しくてしょうがなく、僕は思わず涙を流した。

「ううっ、ま、魔法が使えた、魔法が……うへ、うへへへっ、へへっ」
「おお! いつもの気持ち悪い笑顔が出たぞ、マリー!」
「ふふふ、よかったわね。シオン」

 二人が祝福してくれた。
 それが嬉しかったけど、僕にはまだやりたいことが残っていた。
 涙をぬぐうと、ポケットからあるものを取り出した。

「それは……携帯型の火打石か?」

 そうこれは片手で使える火打石だ。
 小さなピンセットのような形をしており、先っぽには火打石が固定されている。
 かなり小さく、火花も小さい。
 大きめの火打石の方が火がつきやすいため、家ではそっちを使っている。

「ちょっと、見てて」

 僕は正面に手を差し出す。
 その手には火打石を握っている。
 そのまま魔力を集めて、体外放出する瞬間に火打石を叩いた。
 瞬間、生まれた火花が魔力の中で弾かれ、炎となって燃え上がった。
 その火の塊はそのまま僅かに浮かび、消える。

「い、今のは!? シオン、今のは正に魔法だったんじゃないか!?」
「す、すごいじゃない! そんな使い方があるなんて思わなかったわ!」

 僕はしたり顔になり、後頭部を掻いた。
 二人とも嬉しそうに笑い、自分のことのように喜んでくれた。
 僕はずっと考えていた。
 火を起こして、それを魔力に移す。
 それではただ別の可燃物に火をつけているだけだ。
 魔法というにはお粗末ではあるという自覚はあった。
 だから次の段階を事前に考えていた。
 それも体外放出ができてからのことだと思っていたので、これほど早く実現できるとは思わなかったけど。
 とにかく。
 僕は実現できたのだ。
 試作魔法の実現を。その応用まで進めた。
 まだまだ改良の余地はある。
 だってまだ、ただ火の玉が浮かぶだけだ。
 イメージ的には、まっすぐ対象に向かう感じ。
 それが実現するまではまだまだ時間がかかりそうだ。
 でも、確かに僕は魔法を使った。
 三十年以上、思い焦がれていた魔法が使えたのだ。
 これが現実なのかという不安を抱くほどに、僕はふわふわした心境だった。

「えへ、うっへっへ、魔法使えた。やった。できた。僕、できた」
「……嬉しさのあまり、シオンがいつも以上に気持ち悪い笑みを浮かべているわね。
 その上、言語能力が著しく落ちちゃってる……」
「よっぽど、嬉しかったんだろう。今はそっとしておこう」
「え、ええ、そうね」

 二人の生暖かい視線を受けつつも、僕は幸福に満たされていた。
 ああ、ありがとう異世界
 魔法を僕に与えてくれたありがとう。
 これからも頑張って、魔法学を開拓していくから。
 もっともっと魔法を使えるように頑張ろう。
 改めて、そう決意した。

 目次 <<18話 20話>>

【第18話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

「――やはりまったく見えないな」

 ここは居間。
 話し合いを終えた後の話だ。
 父さんの目の前に、僕は魔力を集めた手を見せている。
 ちなみに姉さんには経過を報告しているので、驚きはない。

「かなり光ってるから、これで見えないなら、どうやっても見えないかも」
「ふむ。マリーは見えるんだな?」
「ええ、見えるわ。右手に光が集まってる状態。
 でも、シオンと見え方は違うかもしれないけれど。
 ねえ、集魔状態の時の魔力に触ってみてもいい?」

 僕は逡巡した。
 ゴブリンを倒したのはこの魔力だ。
 もしもマリーが触って、同じようなことになったら、大変だ。
 しかし帯魔状態では温かい程度の熱しか考えないのならば、魔力放出量を抑えれば大丈夫かもしれない。 

「ちょっと待って、もうちょっと魔力を抑えるから……はい、これなら大丈夫だと思う。
 熱かったらすぐに手を放してよ?」
「わかってるわよ」

 魔力量を抑えると、光量も少なくなる。
 その状態で、マリーは僕の手を触った。 

「ちょっと熱いけど、火傷するくらいじゃないわね。
 このまま魔力が増えると、ゴブリンみたいになるのかしら」
「恐らくそうなるんじゃないかな。でもあれは、魔力反応がある対象にしか起きない現象だと思う。
 だから父さんが触っても問題ないみたい。だけど相手に魔力があると、危険みたい」
「……あたしもああなっちゃうってことね」
「多分、だけどね。まだわからないことだらけだから、断言はできないけど」
「しかし、そういうことなら、魔物相手ならば効果があるということだな?」
「うーん、それも一概には言えないかも。ゴブリンが魔力を持っていただけかもしれないし。
 あのゴブリンだけが持っていたものかも。
 人間だって魔力を持っている人と持ってない人がいるわけだし」
「つまり誰にでも有効なわけではないんだな」

 なるほどと、何度も頷く父さん。
 僕とマリーは目線を合わせた。
 互いに抱いた疑問を同じようだ。

「あ、あのさ、父さん、さっきの話の後なのに、順応するの早いよね」
「うん? 信じたからには、何かあるごとに疑ってはきりがないからな。
 これからは手伝うこともあるだろうし、きちんと知っておきたい。
 私には見えないし、感じられないが、その内、認識できるようになるかもしれないだろう?
 それに子供が興味のあることに関心を持たない親などいない」

 いや、それは違うと思うけれど。 
 あなたが子煩悩なだけだと思うよ?
 言わないけど。
 でも僕としては、ここまで興味を持ってくれるのは嬉しい。
 僕、父さんのこういう考え方、好きだな。

「しかし、もし魔力の反応、だったか、それがあるのなら安易に放出すると危険だな」
「うん、もちろん、注意するよ。誰かを傷つけたいわけじゃないから」
「うむ。ならいい。それで今のところ、できるのはここまでなのか?」
「残念ながら、でもちょっと試したいことがあるんだ。
 ちょっと火を起こしたいんだけど」
「ならば井戸の近くで火を起こすか。すぐに消せるからな」

 父さんと二人して話し、外に向かう途中で、僕はマリーの様子に気づいた。
 明らかに不服そうだ。

「どうかしたの、姉さん?」
「べっつにぃ。何でもないわよぉ。
 今まであたしと二人でやってきたのに、父さんと話してることに怒ったりなんかしないんだから!
 なんかあたしと話してる時よりもわかり合ってる気がして、腹が立ったりもしてないから!」

 そうか、そういうことか。
 でもしょうがない部分もあるかもしれない。
 こういうのは、何というか浪漫を感じるものなのだ。
 男同士でないとわからないこともあるのだ。
 父さんは魔法を危険だと言っていた。
 でもやっぱりそういう非現実的なことに思いを馳せることもあるのだろう。
 それが男の子ってものだ。
 差別ではなく区別。
 女性にもわかるだろうけど、やっぱり同性だからこそわかる部分もあるだろう。
 逆に、僕は女性のことがわからないし。

「シオン! 行かないのか?」

 父さんが中庭から叫んだ。
 なんであなたの方がちょっとウキウキしているんですかね。
 まあ、僕も内心ではドキドキしているから、何も言えないけれど。

「い、今行くよ! ほら、姉さん、行こう?」
「むぅ、行くわよ。もう!」

 外に出ると、すでに父さんが薪を組んでいた。
 焚火の準備は万端のようだ。
 中庭の隅に井戸がある。
 そこに移動すると、父さんが言った。

「さあ、火をつけるぞ。いいのか?」

 手に火打石を手にして、目を輝かせたりなんかしている。
 なんか可愛いなこの人。
 僕の父さんだけど。

「うん、お願い」

 何度か火打石を叩くと、火花が散り、火が灯った。
 そのまま、ふーふーと息を吹きかけると、煌々と火が上る。
 さすがに手馴れている。
 僕はこんな風にはできない。

「ありがと、父さん。じゃあ、ちょっと離れてて」

 二人は離れて動向を見守る。
 僕は、焚火の前で膝を曲げると、集魔する。
 右手に集まった魔力をそのままに、火に光を触れさせた。
 瞬間。
 手に火が燃え移った。
 一瞬の出来事だった。
 手には触れていない。魔力にしか炎は触れていない。
 なのに、ガソリンに触れたかのように一気に火が移ってきた。
 手首から先には、青い焔が燃えていた。
 熱い。熱いし、あまりのことにパニックになった。

「燃えてるぅううううううぅうーーっ!!!」
「シオン!」
「な、何してるのよ!?」

 父さんが咄嗟に、桶に入っていた水を手にかけてくれた。
 幸いにも一度で火は消え、残ったのは焦げ臭いニオイだけだった。
 思ったよりは被害が少なかった。
 自分の魔力に移った火だったからか、火傷は負っていなかった。
 でもかなり熱かったけど。

「あ、危なかった……ありがとう、父さん」
「まったく、危ないだろう! 嫌な予感がしたから、桶に水を入れておいたが」
「い、いやほんと、面目ない。本当にありがとう」

 仕方ない奴だとばかりに嘆息する父さんとマリー。
 僕もさすがにこれには反省した。
 でも、さすがにいきなり燃え移るとは思わなかったのだ。

「それで、今のはなんだったの? 突然、手に火が移ったように見えたけれど」
「それなんだけど、魔力って他者の魔力に反応するでしょ?
 それは魔力だけなのかなって疑問はあったんだ。
 それで二つ考えてたことがあって。
 一つは魔力を持っている相手に対して、高魔力を接触させるとどうなるか。
 これはゴブリン相手で結果は出た。
 そしてもう一つ、何かしらの現象に触れさせるとどうなるか、これが見たかったんだ。
 結果はさっきの通り。反応があった。赤い炎は青くなったし、明らかに魔力に燃え移った。
 これは間違いなく、魔力に触れたから起きた現象だと思う」
「なるほど……魔力は火のような現象に触れさせると何かしらの反応を起こすということか。
 もしかしたら他にも?」
「多分ね。だからこれから色々と試すことなると思う。ただ、あまり種類は多くないかな。
 とりあえずは、火の研究をしたいと思う。予想とは違ったけど、間違いなく魔力に反応したしね」
「実際、目にしたからな。信じるしかあるまい。シオンの言葉は真実だったな」

 父さんは嬉しそうにうなずいた。
 僕も嬉しくなって、笑顔を浮かべる。

「やっぱり、二人してわかりあってる。あたし、全然わかんないのに……」
「ほ、ほら、姉さんには姉さんの得意なことがあるから!
 それに今まですごい助けられたし、姉さんがいたから魔力の存在がわかったわけだから!」
「そ、そう? そうよね。うふふ、そう! あたしがいたからよね!?」
「そうだよ!」

 すぐに機嫌を直した、チョロイ姉である。
 そこが可愛いんだけど。
 しかし火に触れた魔力の過剰な反応。
 そして、その結果を考えると、僕は瞬間的に閃く。
 あれ、これって魔法みたいじゃない?
 何もない場所から生み出したわけじゃないけど、手のひらに放出した魔力に火が灯った。
 それはつまり火属性の魔法みたいなものなのでは。
 ファイアボールを出す未来も、遠くないのかも。

「うへ、うへへっ、ファイアボール撃てるぅ、うっへへへっへっへ」
「シ、シオンが気持ち悪い顔をしているぞ!? どういうことだマリー!?」
「あ、ああ、シオンって魔法で、何か進展があるとあの顔するのよ。
 気にしたらダメよ、お父様」
「そ、そうか。息子の新たな一面を発見してしまったな。
 喜ぶべきか、悲しむべきか、悩むなこれは……」

 そんな二人のやり取りを気にすることなく、僕はただ魔法が使えるという未来に思いを馳せ続けた。
 魔法。
 それが現実味を帯びてきたのかもしれない。
 嬉しくて嬉しくてしょうがなく、小躍りしそうなくらいだった。
 本当に転生できてよかった。
 大変なこともあるけれど、報われることもある。
 僕は、そんな世界を好きになり始めていた。

 目次 <<第17話 第19話>>

【第17話】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-

 翌日。
 父さん達の寝室で母さんが寝ている。
 その横にお医者さんが椅子に座りながら、母さんの診察をしている。
 医者と言っても、この世界のレベルでは薬学療法が主らしく、医学の知識は乏しいようだ。
 ちなみに母さんはもう意識を取り戻している。
 顔色はあまりよくないが、話せるくらいには回復している。

「うんむ。問題ない。かなり深い傷だったみたいだがね、綺麗に縫われている。
 他の処置は完璧なようだ。誰か医学に精通している人間がいたのかね?」

 僕は答えに窮して、無言を通した。 
 あの現場にいたのは僕とマリー、母さんとローズ、それとリアだけだ。
 母さんは気絶していたし、ローズとリアはここにはいない。
 知っているのは僕と姉さんだけ。
 結局何も説明せずにいると、医者は更に質問をしてきた。

「縫合自体は珍しくはない。医学をかじっていればね。
 ただ、普通は医者にかかる人間自体多くはないし、医学書も高価だ。
 精通している人間はそう多くはないと思うがね。
 ふむ……まあよかろう。とにかく安静にして、しっかりご飯を食べなさい。
 では、儂は帰るでな」
「ありがとうございました」

 父さんが老人の医者に頭を下げると、僕達も倣って頭を下げた。
 玄関まで医者を見送り、再び部屋に戻った。
 ベッドに寝ている母さんは優しく笑っている。
 ただ疲れたようにしている。当たり前だ。起きているのも辛いはず。
 僕の隣を見ると、姉さんが悲しそうな顔をしながら俯いていた。
 しかし、すぐに顔を上げると、母さんに向かって口を開いた。

「あ、あの! お、お母様……ご、ごめんなさい。
 あたしのせいで……あ、あたしのせいで、こんなことに」

 今にも泣き出しそうだった。
 それはそうだろう。
 自分をかばって、母さんは怪我をしたんだ。
 僕を含め、誰も姉さんを責めないし、そんなつもりは毛頭ない。
 けれど姉さん自身は自分を責めるだろう。
 彼女はそういう子だからだ。
 しかし母さんは柔和な笑みを浮かべたまま、姉さんの頭を撫でた。

「いいの。いいのよ。マリーのせいじゃないわ。
 いい? もしマリーが前に出なくても、魔物は襲ってきていたし、誰かは同じようになってた。
 それにマリーが戦おうとしてくれたから、少しだけ時間が稼げたんだと思うわ。
 だからね、自分を責めなくていいの。マリーは悪いことをしたんじゃないわ。
 勇気を出して、みんなを守ろうとしたんだもの。だから胸を張っていいのよぉ」

 優しさにあふれた言葉だった。
 僕も思わず、泣きそうになるくらいに。
 マリーはたまらず泣いてしまったけど、すぐに涙をぬぐった。
 そしてグッと唇を引き締めて、真剣な顔になる。
 母さんの前で泣いてはいけない、そう思ったんだろう。
 怪我で辛い思いをしているのに、これ以上、心配をかけないようにしたんだと思う。
 姉さんはまだ幼いのに、人を慮ることができる人だから。
 二人の会話が終わったと見ると、父さんが口火を切った。

「では、話はそれくらいで、ゆっくり寝ていなさい。
 しばらくは私達が身の回りのことをするから」
「ごめんなさい……迷惑をかけてしまったわね」
「迷惑なんかじゃないさ。君も子供達も無事でよかった。本当に」
「ええ、記憶が曖昧だけど……もう安全なのよね?」
「ああ。安心しなさい。もうゴブリンは全部駆除した」
「そう……よかった……ごめんなさい、もう、眠く……なって……」

 母さんは目を閉じた。すぐに寝息が聞こえる。
 父さんが母さんに毛布を掛けてあげた。
 僕達は廊下に出ると、一階へと下り、居間に入る。

「二人に聞きたいことがある。座りなさい」

 来た。
 予想はしていたので、面喰ったりはしない。
 でも覚悟が必要ではあった。
 昨日、騒動があってから。
 父さん達が帰ってきた時、すべては終わっていた。
 聞くと、父さん達は近くの森のあるゴブリンの巣を見つけ、そこで住んでいたゴブリンを二体倒したらしい。
 でも、まだ一体いる痕跡があって、急いで村に戻ったとのことだった。
 不幸中の幸いにも怪我人はいたけど、死人は出なかったとか。
 再びの周辺の捜索と、ゴブリンの痕跡を再調査。
 家の修理とゴブリンの処理。
 それと母さんの状況確認と、街に医者を迎えに行くということが重なり、事情の説明ができなかったのだ。
 何が起こったのか。
 色々と疑問はあっただろう。
 逆の立場なら、僕も同じように思ったに違いない。
 テーブルについた僕達は椅子に座る。
 僕とマリーが並び、正面には父さんが座っていた。

「では、事情を聞こう。何があった?」
「……うん」

 どう話したものかと悩んだが、嘘を吐いても、他に目撃者もいるし、騙せないだろう。
 真実を話すしかない。信じて貰えなくとも。
 僕はゴブリンが突然襲い掛かってきたことを話した。
 そして、マリーが襲われ、庇った母さんが傷を負ったこと。
 僕がゴブリンを倒したこと。
 その後、僕の指示で応急処置をしたこと。
 離している最中、父さんはじっと目を閉じて、聞き入っていた。
 話し終えると閑寂な空間が生まれる。
 そして、父さんがゆっくりと目を開いた。

「それを信じろと、私に言うんだな?」
「……嘘は言ってないよ。全部事実で……これ以上、説明のしようがない」
「そうか。シオンが魔力とやらの力でゴブリンを倒したと。
 その後、適切に、医者が感心するくらいの処置を施して、エマを助けた。
 そういうことなんだな?」
「…………他にも見た人がいるから」

 そう言うしかなかった。
 あまりに非現実的だけど、でも事実なのだ。
 昨日から、どう説明したらいいのか悩んだ。
 でも結局、嘘を吐けないし、誤魔化しも聞かないという結論を出した。
 目撃者が多い中で、どうしても嘘は言えなかったのだ。
 こうなることは想像できていた。
 でもそんなことよりも、母さんと姉さんを救いたかった。
 沈黙が続く。
 父さんは顔をしかめて、黙っていたが、やがて嘆息した。

「話は聞いている。領民達から事情を聞いている。
 ゴブリンを倒したという部分に関しては、聞けなかったがな。
 母さんの治療をしたという部分は聞いた。だが……どうしてそんなことができた?
 シオン。おまえはまだ七歳だ。外の世界もほとんど知らない。
 なのに、どうして医学の知識があった?」

 僕は前世では三十歳の男で、日本という国に住んでいて、そこはかなり技術が発達していて、いろんな知識を得られるんだ、なんて言えるはずがない。
 ただ父さんを困らせるだけだ。
 だから曖昧なことを言うしかない。

「僕も、なぜかはわからないよ。でも知ってたんだ」

 父さんは溜息を洩らし、頭を抱えた。
 僕とマリーはただ動向を見守ることしかできない。

「以前、マリーが湖で光が見えると言っていた。
 それと、魚の入った桶の上に手をかざせと言っていたな。
 何を言っているのかと思ったが、その魔力というものに関係があるのか?」
「どうしてわかったの?」
「シオンは昔からおかしなことを言うことはなかったし、行動も理性的だった。
 子供にしてはおかしいくらいにな。
 それなのに、部分的に違和感のある言葉を言ったり、行動をしたりしている。
 それも極一部だけ。だからおかしいと思ってはいた」
「信じてくれるの……?」
「わからん。私は子供のことを信じたい。事実、おまえの説明通りのことは起きている。
 だが信じがたい。なぜ知識があったのか、この際それは置いておこう。
 問題は、ゴブリンを倒せたということだ。
 大人が複数人いてようやく倒せるくらいの魔物を、七歳の子供が殺してしまったということだ。
 そして、この話を、いや、この事実をシオンはすべてきちんと理解しているはずだ。そうだな?」
「…………はい」
「それに魔力とやらの研究をしているとは。
 大人びているとは思っていたが、まさかそんなおかしなことをしているとは思わなかった」

 明らかに悩んでいた。
 自分の子供が魔物を殺し、母親の怪我を治療したなんて、受け入れるのは難しいだろう。
 しかも魔力なんてよくわからない力を使って。
 父さんからしたらあまりにおかしなことが連続で起こって、頭が混乱しているだろう。
 しばらく黙っていたが、父さんは俯いたまま言った。

「いいか、このことは口外無用だ。村人にも同じように言ってある。
 子供ができるようなことじゃない。外に知れたら……よくないことが起こるかもしれん」

 僕はなぜそんなことを言うのか、すぐにはわからなかった。
 でも改めて考えると何となくわかった。
 文明が進んでいない世界では、理解の範疇を超えるものをすべて悪しきものと捕らえる人がいる。
 魔女、異教徒、外来語や西洋医学
 様々な外の、常識外のものをすべて拒絶し、時として糾弾し、淘汰した。
 それが歴史にはまざまざと残り、その中で犠牲になった人も少なくない。
 もし、ただの子供が大人顔負けの知識があり、不可思議な力を使ったら。
 僕だけでなく、周りの人に迷惑をかけるかもしれない。
 それだけは嫌だ。
 僕は自分の置かれている状況を理解した。
 大丈夫かもしれない。でもとても危険な状況なのかもしれない。

「シオン。何があっても、私はおまえの親だ。だから絶対に庇うし、味方でいる。
 だけど、世の中にはやってはならないこと、受け入れられないことがある。
 特に他人は、簡単に人を虐げる。意味がわかるか?」
「特殊な存在は、つまはじきにあう、ってこと?」
「そうだ。私はおまえにそうなって欲しくはない。だからこの件に関しては口外してはいけない。
 それと魔法の研究もやめなさい。それは危険な力だ」

 父さんが言うや否や、マリーが立ち上がった。

「そ、それはダメよ! シオンがどれだけ頑張ったと思ってるの!?
 それに、シオンがいたからあたしもお母様も助かったのよ!
 それなのに、魔法の研究を止めろだなんて……!」
「危ないことかもしれないのに認めるわけにはいかない!」
「危ないかどうかもわからないじゃない!」
「危ないとわかってからでは遅いと言っている!
 それに魔物を殺せる能力が危険でないわけがない!」

 父さんの言っていることはもっともだ。
 子供が魔物を殺した。その能力を危険視するのは当然だ。
 もし、その力のおかげで助かったとしても、親の立場では容認できないだろう。
 マリーの気持ちは嬉しかった。
 必死で僕を擁護してくれていた。
 二人の会話は平行線だった。
 マリーは僕の味方で魔法の研究を続けさせてあげてと主張している。
 対して父さんは魔法の研究を止めさせたい。
 立場的には父さんの指示に従いたくはない。
 でも魔法の研究を続ければ、ずっと父さんに心配をかけることになるだろう。
 もうバレてしまった。
 隠れてこそこそと研究するにも限界があるだろう。
 家族は大事だ。でも僕にとって魔法の研究は尊いものだ。
 そのためにずっと生きてきた。
 だから誰にも邪魔されたくはない。
 家族がいるから生きていける。
 でもそれは死んだように生きるだけ。
 つまらないと思いながら生きるだけ。
 それは、僕に死ねと言っているようなものでもある。
 もしも魔法は存在せず、仕方なく諦めるならば受け入れられるかもしれない。
 でも可能性があるのに、自ら手放すなんてことはしたくない。
 だから。僕は言った。

「父さん、僕は魔法の研究を続けるよ」
「シオン! 私の言うことが聞けないのか! なぜわからない!」

 父さんは明らかに憤っていた。
 当たり前だ。小さい子供の癖に、親にたてついているのだ。
 でもこれだけは譲りたくなかった。
 何が起こっても、譲れば、人生の目的を失う。
 それは、もう二度としたくなかった。

「わかるよ。父さんの気持ちも、言っていることも理解できるし、その通りだと思う」
「だったら、言うことを聞きなさい」
「でもね、もし研究を止めたら、僕は不幸になる。
 何があっても、ずっと引っかかったまま生きていかないといけない。
 父さんにとってはただの危険な力でも、僕にとっては夢の力なんだ。
 実現するためにずっと頑張って、これからもそうしたいんだ」
「……おまえはまだ子供だ。狭い世界でしか考えられない。
 だからそんな考えになっているだけだ。大人になれば」
「大人になっても変わらないよ、父さん。絶対にね」

 僕は迷いなく、父さんの目を見て言った。
 だってもう、一度目の人生で学んだんだ。
 僕は漫然と生きることに幸せを抱けないって。
 父さんは僕の視線を受けて、たじろいでいた。

「剣だって、人を殺すこともあるし、魔物を殺すこともある。
 でも、みんな当たり前のように学んでいる。なんでかな?」
「……身を守るためでもあるし、己を鍛える意味もある」
「それと魔法は何が違うのかな?」
「まったく違う。剣は扱いに注意すれば、危険ではない。
 だが魔法とやらは危険かもしれない。事実、おまえはゴブリンを殺しただろう」
「でも、僕は怪我をしてない。みんなを助けられた。
 そして、僕が魔力を扱えなかったら誰も救えなかった。
 これって、扱いに注意すれば危険ではないってことじゃないかな?」
「物と技術は違う。剣は道具として扱うからこそ何かを殺す。
 だが魔法は何が起こるかわからず、いきなり人を殺すかもしれない。
 事実、おまえはゴブリンを殺したことに、驚いたのだろう。
 それは意図せずに殺したということだ」
「つまり巻き込まなければいいってことだね。
 だったら僕を隔離してくれていい」
「シ、シオン! あんた何を言ってるの!?」
「僕は本気だよ」

 姉さんが何を言おうと、父さんが説得してきても、僕の考えは変わらない。
 父さんは正しい。でも、僕は普通の子供じゃない。
 大人になってからならいいというならばまだ我慢ができるが、今、ここで譲れば、父さんはいつまでも許してくれないだろう。
 だから引かない。
 父さんは呆気にとられていた。
 でも怒ってはいないようだった。
 悲しげに、寂しげにしていた。

「そこまで研究をしたいのか?」
「うん」
「危険なものなのかもしれない。実際、魔物を殺すほどの力だ。
 それが何なのか、私はまだわからないし、本当に存在するのかもわからない。
 もしかしたらおまえ自身の命を奪うかもしれない」
「うん。わかってる」
「誰にも認められないかもしれない。むしろ蔑まれるかもしれない。
 それでも、おまえは続けるか? 魔法の研究を」
「うん、続ける。覚悟はあるよ。
 もしも僕の存在が邪魔で、みんなの迷惑になるっていうんなら、勘当してくれてもいい」

 姉さんが何か言おうとした。
 でも僕の顔を見ると、言葉を失ってしまったようだった。
 僕には迷いがない。
 家族は大事だ。大切な人達だ。
 でも、魔法は僕の人生に深く根付く、僕自身のようなものだ。
 それを捨てたら、僕は僕じゃなくなる。
 もし研究のせいでみんなに迷惑がかかるくらいなら、追い出された方がいい。
 それくらい、僕は覚悟している。
 みんなのことは好きだ。
 だからといって研究を捨てたくはない。
 だから僕は迷わなかった。
 自分勝手だと思う。
 でも、僕のアイデンティティを捨てるようなことを、できるわけがない。

「…………そうか。そこまでの覚悟があるのか」

 父さんはじっと僕を見つめた。
 そうしてしばらくして、鷹揚に頷く。

「わかった。研究は続けるといい。ただし、今後は研究成果を私に報告しなさい。
 あまりに危険なことをするようであれば止めるぞ。
 シオンは普段、しっかりしているのに、時々、思い切ったことをするようだからな」
「え? そ、それだけ? 本当にいいの?」
「仕方がないだろう。男が覚悟をしていることに、親が口を挟めるはずがない。
 まさか七歳の子供にそこまでの覚悟ができるとは思わなかったがな。
 あんなに真っ直ぐな目をされたら、親としても男としても何も言えん」

 深いため息を漏らし、脱力して、苦笑を浮かべる父さん。
 僕はそんな父さんの姿を見ると、鼻の奥が痛んだ。
 理解してくれるとは思わなかった。
 関係は悪化して、勘当される未来も考えた。
 七歳で生きていくのは難しい。
 死ぬかもしれない。
 そんな不安もあった。
 それでも、僕は意志を貫いた。
 そして、父さんはそれを認めてくれた。
 ありがたくて、僕は思わず俯いてしまう。

「胸を張れ、シオン。おまえはおまえのやりたいことを見つけ、その道を進むと決めたんだろう。
 だったら進み続けろ。私は、その手伝いをしよう。それが親の務めだからな」

 僕は顔を上げる。
 頬を伝うものを感じつつも、顔をそむけなかった。
 不意に、手を握られた。
 隣に座っていた姉さんが、僕の手に自分の手を重ねていた。

「よかったわね、シオン」

 姉さんは複雑そうな顔をしていた。 
 でも、認められたことを喜んでいるようでもあった。
 よかった。
 これで心置きなく研究を続けられる。
 その事実に、僕は強く安堵した。
 ああ、これからは父さんに隠しながら研究する必要もないし、積極的に話すこともできるようだ。
 母さんには許可を得てはいないけれど。
 とにかく。
 これからだ。
 最悪な出来事の連続だったけど、得るものもあった。
 また試してみるとしよう。
 その思いを胸に、僕は涙をぬぐった。

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